コラム[cf.]
書面によらない贈与【贈与税】
・・・そもそも父の指示は絶対であり、その指示には逆らうことができず、父が金地金をはじめ色々な財産を簡単に【あげる】と言ったり、既にあげたものを突然に【返せ】と言うなど、何事にも思いのまま無理、無茶なことを言う人物であったことからすると・・・これは、父から子にされた金地金の贈与時期が争われた【京都地裁平成27年10月30日判決(一部認容)(確定)〔※1〕】の一文です。
そこで、贈与となると贈与税は【課税されるのか】または【いくらになるのか】が大きな関心事と言えますが、この点【贈与税の納税義務の成立時期】については、国税通則法で、
[贈与された時]ではなく、
[贈与~による財産の取得の時]と規定しています。
そして、そもそも【贈与】については、民法第549条に続いて、民法第550条で次のとおり規定されています。
【民法第550条(書面によらない贈与の撤回):書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない】
前述の訴訟の争点は、父から【書面によらない贈与】により取得した金地金の全部を、子は平成18年に他に売却したのですが、その【贈与時期を巡り、納税者側である子は平成6年、平成12年、平成16年の各年であると主張し、課税庁側は全部が平成18年であると主張】しました。この点、訴訟の発端である【平成25年10月7日公表裁決】では、課税庁側の主張が全面的に認められて、贈与は平成18年であるとしています。
その国税不服審判所の判断を要約すると【仮に、子がその主張する時期に本件金地金を父から受け取っていたとしても、父の人物像からすれば、いつでも返還を求められる可能性があり~本件金地金を、自己の財産として現実に支配管理し自由に処分できる状態に至ったものとはいえず、贈与があったとしてもその履行があったものとまではいえない=まだ贈与により取得していない】→【本件金地金を他に売却することで、もはや父の意向のみでは返還を求めることはできなくなり、子は売却した時に、本件金地金を、自己の財産として現実に支配管理し自由に処分できる状態に至った=贈与により取得した】としています。
一方の京都地裁平成27年判決では、主張立証責任の分担の観点から、課税庁側が【平成18年分の贈与として全部を立証しきれなかった】ことが判決の分かれ目となり、納税者側の主張の一部(ある意味、大部分と言えるかもしれません)が認められ、平成6年と平成12年にそれぞれ履行は完了していることから、これらの各年を贈与による取得の時期(残りは平成18年)と判断しています。
結果的に、平成25年裁決で認められた判断は覆りましたが、課税庁側は【父の人物像を背景に、自己の財産として現実に支配管理し自由に処分できる状態に至った時】に拘って、取得の時期は【外形的かつ客観的に明らかな事実に基づいて判断すべき】と当初から主張してきました。
この点、贈与の場合の【財産取得の時期】については、相続税基本通達において、
書面によるものについては[その契約の効力の発生した時]とし、
書面によらないものについては[その履行の時]と規定しています。
確かに、親族間でされる書面によらない贈与では【履行】の曖昧さは否定できないところ、履行の完了に加えて【外形的、客観的、明らかな事実】で取得時期を判断しようとすると、少し乱暴な言い方になりますが【課税庁側の都合で、実際の贈与時期より明らかに遅い時期を贈与の時期と認定される恐れ】が生じます。
この【外形的、客観的、明らかな事実】という要件は、そもそも【贈与が成立しているか、いないかを判断する場合】に考慮されるもので、履行が完了して、民法第549条の【贈与が成立している状況での取得時期の判断】には必要ないのです。
何れにしても【書面によらない贈与は履行の完了前であれば撤回が可能】ということは、注意しなければなりません。履行が完了することで、贈与の目的とされた財産が確定的に移転し、受贈者は現実に担税力を取得するに至ったと評価できることから、贈与税の納税義務の成立時期を【口約束の状態】ではなく、財産の【取得の時】としているのです。
この点【書面によらない贈与の不確定な部分】を解決して【贈与の確実性】を担保するためには、贈与契約書を作成することや、書面によらない贈与についての履行があったことを確認する書類として【贈与確認書】を作成するなどの、手続き面での補完は必要です。また、贈与税の納税義務の成立時期の【早い、遅い】は重要な論点であり、今回の判決のとおり、課税庁側の主張が常に適正とは限りません。そうなると、他の税目にも共通することですが【課税の便宜のための判断に任せる】ことのないように、前述の書類の整備を含め【主張できるように準備】をしておくことは大切です。
さて、税金の場面においては【様々な父親像】が登場するため、色々とリンクさせながら判決文を読んだのですが、なるほど、ストーリー性のあるものでした。個人的には、贈与される側になることはないと思われるところ、将来、もし贈与する側になったときには【適正な贈与】に向けて行動することはできそうですが、そんなことよりも【どんな父親】になっているのか・・・気になります。
<参考>国税通則法第15条第2項第5号、相続税法基本通達1の3・1の4共-8(2)、税務訴訟資料第265号-167(順号12750)〔※1〕、平成25年10月7日公表裁決
なかなか消えない開業費【所得税】
貸借対照表の資産の部に計上された開業費は、償却という方法で経費にします。
建物や車両運搬具などを費用化する際の【減価償却費】と同じ考え方で、多額の一時的な支出を何年かにわたって経費勘定に振り替えていく作業となります。このうち、開業費は繰延資産の償却となり、勘定科目も本来は【繰延資産償却】となるのですが、個人の場合は、申告書に添付する決算書のうえでは減価償却費に含めて計算するため、この点からも同じ考え方と言えます。違いと言えば、減価償却は【強制償却】という点でしょうか・・・。
さて、開業費の償却については、所得税法で【償却期間】が設定されています。これは、減価償却の【耐用年数】に相当しますが、原則5年(=60ヶ月)で均等償却となります。また、原則に対する例外として【任意償却】という方法もあります。
例えば、300万円の開業費を償却しようとする場合、次の方法による償却が考えられます。
①原則・・・1ヶ月当たり5万円(=1年当たり60万円)を償却費として計上。結果、開業年が1年未満であれば、足掛け6年で全額を均等に償却します
②任意償却・・・全額を償却するまでに5年(=60ヶ月)以上掛かっても構いませんし、1年当たりの償却額にも限度がありません。結果、自由に償却時期と償却額を選択できるため、開業年に300万円全額を償却費として計上することや、利益が突出した年に償却することで節税を図るということも可能です。何れにしても、開業費は好きな時に経費にできるという特徴があります。
そこで、以前のコラム(開業前に色々と準備しました【2017.07.07所得税】と、多くなりすぎた開業費【2017.07.14所得税】)では【開業費の範囲】について記述しましたが、今回はその最終回で【節税に繋がるカラクリ】について考えたいと思います。その前に、このカラクリに必要な要素をもう2つ確認して下さい。
1つ目は、純損失の繰越控除です。これは事業所得の金額の計算上生じた【赤字を3年間繰り越すことができる】規定で、仮に、平成29年が▲200万円、平成30年は300万円の黒字の場合、平成30年は平成29年の赤字を控除した後の100万円で税金を計算することができるというものです。当然、3年以内となる平成32年までの黒字から控除できるわけですが、反面【3年を過ぎると控除できなくなる】点は注意が必要です。
2つ目は、業績の【設定】です。一般的に、開業年は赤字になり安定した経営には数年を要すると言われることや、対して、積極的に黒字化を実現していくつもりであることなど【どのように業績を設定するか】もカラクリの要素と言えます。そして、これらの要素をまとめると、
【開業年は純粋に赤字だからこれ以上経費がなくてもいい】+【開業後数年間は多くの黒字は期待できない】+【赤字を3年以内に控除しきれなかったら勿体ない】+【開業費は任意償却ができる】=だから【開業費で資産計上しておけば将来の黒字の時に経費にできるから便利】というような発想になるのかもしれません。
また、発信する側も、多分【開業費は任意償却をすれば好きな時に経費にできるので節税対策になりますよ】と表現したいところが【開業費で節税できる】という表現に置き換わったんだと思われます。なるほど、この方が【ミラクルな方法】にも【お得な方法】にも、そして何より【分かり易い表現】に感じられます。
開業費が【節税に繋がるカラクリ】はこんなところです・・・。それでも、開業や設立支援と節税を【提案する立場】としては、改めて【開業費勘定で処理すれば節税できると勘違いしないようにご注意下さい】と、発信します。
ところで、開業費の処理については、個人事業主だけではなく、法人であっても同様の場面が想定されます。この点、法人であれば【法人税法】とは別に【中小会計要領】や【中小指針】が求めるところの【費用処理の取扱い】を無視することはできません。
こちらは【適正な会計処理】からの視点であり、節税というよりは、所謂【開業費勘定の資産価値】に着目していますが、確かに、
業績と相談しながら償却して[如何に節税に繋げるかを調整できる]税法ベースの考え方と、
支出の効果が期待されなくなった時までには[費用処理を求める]会計ベースの考え方では、
貸借対照表に計上されている[開業費勘定の捉え方]は大きく異なります。
個人と法人の違いはあっても【何時かの節税のために温存していたはずの開業費】が【何時になっても消せない開業費】になっていないかの検証は忘れずに【適正な会計処理】を・・・。
<参考>所得税法第50条、所得税法施行令第137条、所得税法第70条第1項、第4項、第5項、所得税法施行令第201条
個人で確定申告をする【会計】
以前のコラム(副業の申告は【2017.09.01所得税】)では、副業をテーマに【事業所得と雑所得】の判断について記述しました。
今回は、業務の遂行または役務の提供(=労務の提供等)の対価を巡る、所謂【外注費か給料か問題】ですが、これは【法人が支払う報酬】からみた場合の表現で、逆に【個人が受け取る報酬】からみた場合は【事業所得か給与所得か問題】に置き換えることができます。
ところで[受け取る側の視点]では、もしかしたら、
・・・受け取る報酬を【給与所得にする】と源泉徴収をされて手取りが減ってしまうし、経費を落とせない。でも【事業所得にすれば】収入から経費を差し引けるし、青色申告特別控除も適用できるかもしれないし、年末調整で終わってしまう給与所得よりは【節税】できる。
だから、個人事業主として【申告をする方がいい】と、思っている・・・かもしれません。
また[支払う側の視点]では、もしかしたら、
・・・支払う報酬を【給料にする】と源泉所得税を徴収して翌月の10日までに納付しなければならないし、労務の問題を無視することはできなくなる。また、消費税の計算上、課税仕入れにならないから増税になる。でも【外注費にすれば】一切の源泉徴収事務は不要となり、手続き面と管理面での煩わしさがなくなる。何より、消費税が【節税】できる。
だから【外注費で処理したい】と、思っている・・・かもしれません。
さて、この問題を解決する判定基準として【支払う側の視点】が争点となった【最高裁平成27年判決(塾講師等に支払った労務の提供等の対価は外注費ではなく給料とされた事案)〔※1〕】があります。なお、この判決では【受け取る側の視点】が争点となった【最高裁昭和56年判決(弁護士の顧問収入は給与所得ではなく事業所得とされた事案)〔※2〕】を引用しています。
何れの判決でも、事業所得に該当するには【自己の計算と危険において、独立性、有償性、反復継続して遂行する意思、社会的地位】などの要素が求められました。
一方で、給与所得に該当するには【雇用契約またはこれに類する原因、使用者の指揮命令(=従属性)、何らかの空間的・時間的な拘束の存在】などの要素が求められました。
このほか、納税者の主張に対する検討として、
①報酬が一定の日時に定額で支払われていること【だけでは外注費(=事業所得)に該当しないとは判定できない】ことや、
②源泉所得税が10%控除されていること、外注費であるとの認識または意思で業務委託契約を締結していること(=当事者の認識を重視すること)、受け取る側が事業所得で申告していること、受け取る側が義務なくして何らかの費用を負担していること、労働基準法の適用がないこと、過去の税務調査において給料とすべきとの指摘がなかったこと【だけでは給料(=給与所得)に該当しないとは判定できない】こと、
なども踏まえて、所得区分を【総合的に】判断しています。
このように、受け取る側の個人が確定申告をすることだけでは丸く収まらない【外注費か給料か=事業所得か給与所得か】の問題。業務形態が多様化している中では、単純に解決できる論点でないことは間違いありません。そのため、一般抽象的に分類すべきではなく、また、特定の要素のみをもって分類をせず、全てを個別に検討する必要があると言えます。
では、改めて、契約にあたって確認をすべき点は何でしょうか。
[受け取る個人側の心構え]
事業所得の意義で【自己の計算と危険において~】と表現されるように、まずは、自身が個人事業主であることを表明し、労務の提供等にあたっての立ち位置を確立することが重要です。そして【受け取る対価が事業所得または給与所得のどちらであるかを認識したうえで】契約を締結することが必要です。この点、個人事業主からの発信であることがポイントと考えます。
所得区分の判定を【申告時期になって検討すべきこと】と勘違いしませんように・・・。
[支払う法人側の心構え]
雇用契約か請負契約かなどの【契約の実態】と【契約書の形式】とに【ズレ】がある場合に、所得区分の判定が問題となります。仮に外注費で処理することに一定のメリットがあるとしても【外注費ありきの契約書】を主導しないように、そして主観的に判断しないように【支払う対価が外注費か給料かをハッキリさせたうえで】契約を締結するべきと考えます。
この点、対価の支払い時には源泉徴収義務が発生してしまいますから・・・。
なお、この問題は法人が支払う場合に限定されず、個人事業者が個人に支払う報酬についても想定されます。そして、複数税目を巻き込んでしまうテーマであることから【会計】に分類しました。
<参考>所得税法第27条、第28条、第183条、消費税法第30条、税務訴訟資料第265号-107(順号12690)〔※1〕、最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁参照〔※2〕
何を取り壊したか【所得税】
建物の取り壊しに関する費用としては、取り壊しの際に実際に支払った【取り壊し費用】と、取り壊すことによって滅失する(=ゼロになる)建物の帳簿価額に相当する【資産損失】があります。
今回は、取り壊し費用について考えたいと思いますが、広く知られている解釈として、土地を譲渡するための取り壊し費用は【譲渡費用】、古家付きの土地を購入し直ちに古家を取り壊した場合は【土地の取得価額】、アパートの建て替えのために取り壊す場合は不動産所得の【必要経費】となります。
判断の基準としては【何を】取り壊したか(=対象物)ではなく【何のために】取り壊したか(=目的)がポイントとなります。では【アパートの建築のため】に【空き家】を取り壊した場合はどうでしょうか・・・。
これを、①【目的という視点】から見ると、アパートの建築による将来の不動産所得に対応する費用と捉えれば必要経費になりそうです。また、必要経費にならなくても建物の取得価額に算入されて、間接的に費用化されるとも捉えることができそうです。
他方、②【対象物という視点】から見ると、空き家は【不動産所得を生ずべき業務の用に供されている資産(=業務用資産)ではない】ため、直接の必要経費にも、建物の取得価額にも算入されないという捉え方ができます。
・・・結論は、②の判断のとおり、不動産所得の必要経費にはなりません。支払い時の経費にも減価償却費としても経費にならず、取り壊し費用は家事費として処理されます。この点、相続で取得した建物を取り壊してアパートを新築するというようなケースが考えられるところですが、新築するアパートの建築代金の中には、この類の取り壊し費用が含まれている場合がありますので、この部分を除外する作業を忘れないようにしなければなりません。
さて、もう一つの事例として【同族会社に貸し付けている事務所建物を取り壊して、新たな事務所を建築する】場合はどうでしょうか。
社長が個人で建物を建てて同族会社に賃貸(=社長の不動産所得が発生)しているケースですが、同族会社は現に建物を業務の用に供している状態を想定します。
一見、業務用資産の建て替えなので【目的という視点】からも【対象物という視点】からも、単純に社長の不動産所得の必要経費になると思いがちですが、気をつけなければならない点があります。それは【家賃の支払いがきちんとされているか】です。
よくあるパターンとしては、貸付の当初は家賃の支払いをしていたけれども、同族会社の業績が悪化したことや、社長の所得税の負担を軽減したいことなどを理由に【家賃の支払いをしていない】場合があります。
これが、賃貸借契約の継続を前提として、単に賃料の支払いが免除されている状況なら別ですが、殆どの同族会社の場合は、賃貸借契約が解除されて、使用貸借契約が成立している状況になっていると思われます。
結果、賃貸借契約であれば必要経費になる余地はあっても、使用貸借契約で貸し付けられている建物は【不動産所得を生ずべき業務の用に供されていない資産(=非業務用資産)に該当】し、その取り壊し費用を必要経費に算入することはできません。
勘違いしそうな点としては【何のために】でも【何を】でもなく、旧事務所が【業務用資産に該当するかどうか】ということです。結果的には、前述の【空き家の場合と同様】の取り扱いとなりますが、この場合、いくら【身内】であっても、適正な賃料のやりとりを軽く考えてはいけません。
取り壊し費用を必要経費にするにあたり、
取り壊したものは何かについては、業務用資産であることを[前提]としても、
必要経費、譲渡費用、取得価額、家事費の何れかに分類されるかについては、実は、取り壊しの時期や、資産の規模の違いなど、様々な[場面で異なる]取り扱いとなります。
そして、何が目的だったかを含め、取り壊すことになった経緯が[決め手]となります。
何れにしても、資産損失を含めた建物の取り壊しに関する費用が必要経費になるかどうかは納税額に大きな影響を与えるため、とても重要な論点と言えます・・・。
<参考>所得税法第26条第1項、第37条第1項、第45条第1項、民法第593条、平成28年3月3日公表裁決
親族の車両の減価償却費【会計】
年末にかけて、恒例の確定申告に関する各種説明会が開催されます。
記帳を中心とした【帳簿の作成】のほか、帳簿の作成は済んでいることを前提に、決算整理仕訳を中心とした【決算書の書き方】を説明しますが、帳簿や書類の完成度はともかく、気持ちはどうしても節税の方向へ向かってしまいます・・・。例えば、個人事業にあたり【妻の車両を使っているけれども、経費になりますか】という質問は、必ずあります。
まず、経費に【なるかどうか】の判断については、所得税法第56条と所得税基本通達56-1をもとに、経費にすることができます。ザックリと言えば【生計一親族の資産を無償で事業の用に供している場合は、その生計一親族の負担する費用を事業主の経費にできる】というものです。なお、親族に対価を支払う有償パターンだとしても、同様の考え方で経費にすることができます。車両であれば、その年分の自動車税、保険料、車検代、タイヤ代などの維持費のほか、新たに車両を購入した場合の購入費用が考えられるでしょう。
また、経費になること自体は分かったけれども、実際のところ【どれくらい】経費にできるかという【量的な】部分は一番気になるところです。
これが車両に係る各種費用となれば、奥様の車両のみの稼働か、または事業主名義の車両のほか2台目としての稼働かに関係なく、事業に必要な部分である【事業専用割合】を事業主が決定しなければなりません。この点、業種によって何割とか、金額に応じて何割というような係数は法定されていませんが、かといって、事業主の主観的な判断のみで自由な割合を主張できるものでもなく、最終的には業務遂行上の必要性を検討し、必要な部分を明らかに区分する必要があります。何れにしても、これはこれで、結構手間の掛かる作業となります。
さて、確定申告会場でのやりとりです。税金の計算まで全て完了済みで、提出するだけの状態の方ですが、何だか、色々と調べられたようで、事業専用割合の判断についても大凡ご自身で根拠を持って判断されているようですし、その他の収入と費用の項目についても概ね理解をされているようですし、決算書も申告書もきれいに作成してあります。
【限られた時間での聞き取りの範囲内】では大丈夫だろうと期待しつつ、減価償却費を確認したところ、本人は【定率法】を選択しているようです。・・・が、オチというか、何とも言えない間違いの発見に至り・・・【奥様の車両についても定率法】を適用していたようです。
ところで、前述のとおり、生計一親族名義の資産に関する経費は、
まさに[事業主名義の資産に関する経費と同様に]処理できるわけですが、
経費にできるからといって[償却方法まで]事業主の選択方法と同様に計算することはできません。
事例では、事業主の償却方法が【定率法】であったとしても、奥様の車両の減価償却費については【法定の償却方法である定額法】で計算(=結果、減価償却の計算明細書では、奥様の車両だけが定額法という表記)をしなければなりませんでした。
これは、事業専用割合が【どれくらいか】という部分ではなく、また、帳簿や決算書、申告書の【書き方そのもの】でもありません。あくまでも、資産の名義は誰かによる【計算方法の判断】の問題であって、同じ様にみえても、それぞれ別な判断が求められます。結果としては、どれくらい経費にできるかという【量的な】部分に影響してしまいますが・・・。
節税と言えば【量的な結果】を意識してしまいますが、前提となる計算方法が間違っていたら節税の効果もハッキリしません。この点は、どの税目においてもよくある光景ですが、当然、そこまでのチェック機能は会計ソフトにはないでしょうし、説明会でもしないでしょうし、国税庁の確定申告書等作成コーナーでも教えてくれません。多くはないかもしれませんが、誰でも【気にすることなく素通りしてしまいそうな】事例といえます・・・。
それと念のため【奥様が車両の購入費用を負担したにもかかわらず、名義だけを事業主とし、事業主名義の車両として定率法を適用する】というようなミラクルは【そう簡単には】起きません。
<参考>所得税法第49条、所得税法第56条、所得税基本通達56-1、所得税法施行令第123条第2項、平成27年9月2日裁決(東裁(所・諸)平27-25)