コラム[cf.]

2017-08-04 10:54:00

役員の背広代等は経費になる【法人税】

【社長のスーツは経費になりますか】という質問が、まだまだあるようです。この質問に対して、経費には【なりませんとだけきっぱりと言う】のがよいのか、経費には【なりますよとだけ言って期待を持たせる】のがよいのか、伝え方は様々です。
さて【役員の背広代等(=スーツ、ワイシャツ、ネクタイ、靴など)は経費になるか】という質問に対しての回答ですが、
[経費には]なります。経費にはなるのですが、同時に、
[役員個人に所得税が課税されること]と、法人税の計算における[損金には算入されないこと]について理解しておく必要があります。

まず1つ目は、個人の課税関係です。背広代等の給付を受けた個人について経済的利益が発生するかどうかの判断が必要になりますが、経済的利益がある場合は、個人に給与を支給したのと同様の課税をしなければなりません。
この点、所得税法では非課税所得を列挙していますが、その中に【制服その他の身回品の支給または貸与】があります。一見、背広も制服と捉えがちですが、ここで言う制服は、①職務遂行上の必要性、②使用者自身の業務上の必要性、③専ら勤務場所のみにおいて着用するものとの要件から、例えば警察職員や消防職員、鉄道職員などの制服のほか、事務服や作業服などが該当します。なお、背広代等は、私服として職場以外でも着用できると考えられることから、非課税とされる制服には該当しません。結果、現物支給に対して個人の所得税が課税されてしまいます。

2つ目は、法人の損金算入についてですが、役員給与の損金不算入規定のうち、定期同額給与の判断です。前述のとおり、給付を受けた個人側の非課税判断で、役員個人に対する経済的利益とされた場合は、役員に給与を支給したのと同様の効果となります。この点、背広代等の支給は定期同額給与とされる経済的利益にも該当しないため、損金に算入される給与とはならず損金不算入となってしまいます。そもそも会社が負担すること自体は自由ですが、結果として法人税の節税効果は期待できません。

さて、何だかこうなると【経費になる】という表現は【支出した場合の勘定科目は福利厚生費でいい】という程度の意味でしかなくなります。また【経費になれば節税できる】と期待して質問したつもりなのに、単に【会社で負担してもいいか】という程度の質問に置き換わってしまい、本来求めている【節税効果】の話題でもなくなってしまいます。
そうすると、支給に伴う法人と個人の課税関係を理解したうえで会社が負担することに決めたのなら別ですが、役員の背広代等は経費になるかという質問があったときは、やはり、
【役員に対する背広代等の支給については、法人の損金には算入されず個人に税金がかかるため、結果として節税効果はないと考えられることから、会社がその支出を負担することはないでしょう】と回答するのがよいのではないかと考えます。経費にして節税したいという希望は普通に持つでしょうし、知りたい側はシンプルにイエスかノーかで言ってもらった方が分かり易いのかもしれませんが・・・。

ところで、例えば建設業の経理を考えた場合、但書に【作業着代として】という領収書があったら如何でしょうか。あわせて、帳簿にも同様に記載されていて、更に自計化により同様の摘要が入力されていたとしたら・・・。これを、福利厚生費勘定で処理していたとしても、業種的に何ら不自然な点はないという思い込みも手伝って、本当は前述のような役員の背広代等の支出だったとしてもそのことに気づくのは簡単ではないでしょう。結果、法人の損金不算入も個人に対する課税も漏れたままとなります。こんなことを考えると、基本中の基本ですが、領収書の但書も軽く考えてはいけないように思います・・・。

<参考>所得税法第9条第1項第6号、所得税法施行令第21条第2号、第3号、所得税基本通達9-8、法人税法第34条第4項、法人税法施行令第69条第1項第2号、法人税基本通達9-2-9、9-2-10

2017-07-28 10:51:00

役に立たないエンディングノート【終活】

いきなり勘違いしそうなタイトルになってしまいましたが、念のため、
[エンディングノートは役に立たない]のではなく、
[エンディングノートは書かなければ何の役にも立たない]という内容であり、以前、別件で相談に来られた方からお聞きした相続のお話を紹介させて頂きます。亡くなられた方は事業をされていた方でもなく、また資産家でもなく、相続税とは接点のない所謂【小さな相続】とされるケースでした。

ご夫婦共働きの父と母に子2人の典型的な第一順位の家族構成で、お母さんが亡くなられたとのこと。当時、お父さんとお母さんと長男は同居で、次男は別居のなか、お母さんの辛い闘病生活が続いたそうです。
間もなく余命という事実を聞かされたそうですが、不思議なものでお父さんとお兄さんは【その現実を受け止められずに落胆】し、他方で弟さん家族は【お母さんにとってどうすることが一番いいのか】を考えたそうです。そして、残されるお父さんとお兄さんにとっては、まさに【エンディングノートは必要だ】とも・・・。

結局、闘病生活の中でエンディングノートを書いてもらうことはできなかったそうですが、弟さん家族は、病室を訪れる際は悲しい顔も悲しくなる話題も一切なしでいこうと決め、何気ない会話の中にも笑顔が見れるようにと様々なお話をされ、お母さんから色々なことを聞いたそうです。嫌いな食べ物のこと、趣味のこと、自分の姉妹や親戚のこと、孫のこと、家のなかのこと、食べれないのに作ってみたい料理のこと、へそくりのこと、仏様のこと、元気になったらやりたいこと、今食べたい物のこと、早くお家に帰りたいこと、元気なうちにお父さんと旅行に行きたかったこと、いつでもお父さんとお兄さんを心配してること・・・などでした。

このケースではお母さんの気持ちが書面にも音声にも残っていません。また、弟さん家族としては、治療を受ける病院の選別や、余命をきちんと伝えたいという願いは実現できなかったそうですが、限られた時間にされた会話の中でお母さんから聞き取ったこれらの内容は、まさにエンディングノートそのものだったように思います。そして、お聞きして感じたこと・・・形は何でもいいんだなということです。
理想としては、日常生活の中で、それぞれが、それぞれのメッセージをくみ取ることができればそれに越したことはないのですが、叶わない場合もあるでしょう。それでも、遺産分けを目指した遺言とは異なり、エンディングノートは作成してこそ意味のあるものと考えます。あらためて思いました。

・・・気になるところですが、その後のことはお聞きしておりません。唯々、お母さんのメッセージが、お父さんとお兄さんに伝わっていることを願うばかりです。

2017-07-21 10:46:00

cf.【cf.】

私が税理士業務をすすめるにあたって掲げるテーマは【人】です。
その中で【現場第一】と【適正であること】にはこだわっていきたいと考えていますが、人と接することは、相手の話を十分聞くことと、言葉や文章、図を使って相手に伝えることの組み合わせと思っています。ただし、その[伝わり方]は人によっても、タイミングによっても違うもので、常に自身の[伝え方]が大きく作用するものだということを意識しています。
既にお伝えした2つのコラムは、どちらも開業費についての記述としましたが、改正項目でもなく、特に旬な話題でもないのに何で・・・と、お気づきの方もいらっしゃると思います。この点【開業時特有の1回だけの処理のこと】にしては【伝え方と伝わり方は間違っていないだろうか】と考えた場合、本当に細かな点のようにみえて個人的には本当は論点と感じていたため、文字通りのスタートとしてみました。改めてご覧下さい。

さて【cf.(カンファ)】とはラテン語で【比較参照せよ】という意味のようで、中学校の英語の先生が授業で多用していたことを覚えています。その後も印象に残っていたため、この職業に就いてからは当たり前のように使っていましたが、職業柄、CF(キャッシュフロー)という別な意味でも見かけるようになり、何れにしても個人的には馴染みのある単語となりました。因みにコラムの[cf.]は[シーエフドット]と読みます。
そんな縁のある言葉をテーマに、何年も前に浮かんだ構想を2017.07.07(金)にスタートさせたわけですが、そもそも、内容がコラムという位置づけになるのかどうかは別として、
できれば[多数意見に流されることのないような]記述を目指し、
マナーとして[特定の意見を一方的に否定しない]ように心掛けて、
論点と感じたことについては[何を比較参照すべきか]を、一つ一つ伝えていきたいと思っています。

読み辛い文章であったり、分かり辛い表現であったり、逆に言葉足らずであったり、まだまだ不備は多いと思いますが、引き続きお付き合い下さい・・・。 

2017-07-14 10:40:00

多くなりすぎた開業費【所得税】

市販会計ソフトの普及は、あまり簿記の知識に自信はないけれども起業をしたいと考えている方にとって、インターネットの利用と併せてとても心強い環境と言えるかもしれません。

前回は、開業費の範囲についてお伝えしましたが、今回は、開業前に支払った費用の続きとして【開業費は節税に繋がるかどうか】という別の視点から確認したいと思います。
まず【開業費】と検索すると、大半のサイトで【~も開業費にできるんです】や【開業費で節税】のような記述が見受けられます。この点、発信者側の意図は分からないので一概に否定することはできないのですが、受け取る方によっては【開業費にすれば節税できると勘違い】するのではないかと心配してしまいます。

そして、勝手と思いながら、前回お伝えした開業費の範囲という細かな点(でも本当は論点と思っています)の見落としについて、次のように考えてみました。
→自分で確定申告をするには、帳簿を作成しなければならない
→自分で帳簿を作成したいが、簿記の知識に自信がなくても市販の会計ソフトなら簡単そうだ
→でも、実際に使ってみたら勘定科目が分からない
→できれば今すぐ答えが欲しいが、相談する相手は身近にいない
→インターネットで検索してみたら【~は開業費でいい】や【節税】という記述がある
→念のため【~は開業費でいい】や【節税】という記述を【複数のサイト】で確認する
→複数のサイトの記述=多数意見が後押しになり【開業費にすれば節税できると解釈】してしまう
→結果、開業費から除かれる支出まで開業費勘定残高を構成することになってしまう
です・・・。仮に、答えを求めようとする側にこのような心理が作用していたとしたならば不本意だなと思いつつも、インターネットと市販会計ソフトの普及という背景から、このようなケースは意外に多いと感じています。ご自身は如何でしょうか。

さて、開業費は節税に繋がるかどうかについて・・・、
[開業費勘定の費用化(=償却)のタイミング]により節税に繋げることは可能ですが、
開業費勘定で処理すれば[節税できると勘違いしないように]気を付けて頂きたいとお伝えします。そもそも、開業費に関連して節税に繋げようとするならば、その支出は開業費なのかどうかの判断がスタートであり、論点と言えます。開業費勘定で[処理するか]ではなく[処理できるか]をお考え下さい。

ところで、開業費勘定で[処理できない]からと言って、
開業費勘定で[処理できなかった費用は経費にならない]ということではありません。
前回のコラムでもお伝えしましたが、原則どおり、消耗品費や旅費交通費、減価償却資産勘定など適正な勘定科目で処理して、堂々と必要経費に計上して下さい。特に、あれもダメこれもダメと言われてしまうとそのまま勘違いしそうなところですので、この点は混同しないように気を付けて頂きたいと思います。そして、開業費勘定で処理すべきものについては【開業費勘定の費用化(=償却)のタイミング】がまさに節税に繋がるわけですが、前述の勘違いしてしまうカラクリを含めて、またの機会にお伝えしようと思います。

<参考>所得税法第50条、所得税法施行令第137条

2017-07-07 10:09:00

開業前に色々と準備しました【所得税】

今やインターネットで色々と手軽に検索できることから、このタイトルをみて開業費のことだと気づく方は多いと思います。そこで、今回は【その支出は開業費に含まれるのか】を確認したいと思います。

例えば、自分の店をもって飲食店を始めたい方。オープンまでにはやるべきことは沢山あると思いますが、お店の食器類やテーブル・椅子などの購入もその一つでしょう。タイミング的には開業前に支払った費用と言えますが、これらの購入費用は開業費になるのでしょうか。
結論は、開業費になりません。仕訳例としては、日付は開業日で、勘定科目は消耗品費や減価償却資産で、摘要欄には実際の支払い日とその内容を記入する方法が妥当と言えます。結果的に【開業後に購入した場合と特に違いはなく】、仮に個々の金額が10万円未満であれば消耗品費で処理されることから【開業年分の消耗品費勘定は多額になる】こともあるでしょう。

開業費は繰延資産の一つですが、そもそも繰延資産とは、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものであり、このうち開業費とは、
①~・・・事業所得・・・~を生ずべき事業を開始するまでの間に、開業準備のために【特別に支出する費用】であり、
②【資産の取得に要した金額とされるべき費用および前払費用を除く】
と、定義しています。食器類やテーブル・椅子などは、まさに資産の取得に要した金額であり、開業費からは除かれるのです。

さて、現時点のご自身の帳簿を確認してみて下さい。開業前という時期的な判断のみで開業費勘定で処理していた場合は、きっと、開業費勘定の残高が多額になっていることと思います。これから起業を考えている方と起業されて間もない方はまだ間に合います。もう既に申告をしてしまった方は放置するのだけはやめましょう。何とかなるかもしれません・・・。開業前に支払った費用のうち開業費勘定で処理できるものとは、
開業前に支払ったかどうかという[単に時期的なことだけ]で判断するのではなく、
資産の取得や前払費用を除く特別な支出のうち[個々の支出の内容に応じて]判断すべきものなのです。
因みに、開業前に支払った建物賃借契約に係る契約金、パソコンや専門書の購入費用、年払いの会費、内装工事費、商品や材料の仕入れ代金なども開業費からは除かれて、個々の内容に応じた勘定科目で処理することになります。

ところで、何故このような細かな点(でも本当は論点となりますが)を見落としてしまうのかとても気になったので、敢えて検索してみました。様々な記述というよりは目を引くような記述が多く、なるほど・・・何となくわかったような気がします。

<参考>所得税法第2条第1項第20号、所得税法施行令第7条第1項第1号

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