コラム[cf.]

2017-09-22 15:12:00

個人で確定申告をする【会計】

以前のコラム(副業の申告は【2017.09.01所得税】)では、副業をテーマに【事業所得と雑所得】の判断について記述しました。
今回は、業務の遂行または役務の提供(=労務の提供等)の対価を巡る、所謂【外注費か給料か問題】ですが、これは【法人が支払う報酬】からみた場合の表現で、逆に【個人が受け取る報酬】からみた場合は【事業所得か給与所得か問題】に置き換えることができます。

ところで[受け取る側の視点]では、もしかしたら、
・・・受け取る報酬を【給与所得にする】と源泉徴収をされて手取りが減ってしまうし、経費を落とせない。でも【事業所得にすれば】収入から経費を差し引けるし、青色申告特別控除も適用できるかもしれないし、年末調整で終わってしまう給与所得よりは【節税】できる。
だから、個人事業主として【申告をする方がいい】と、思っている・・・かもしれません。
また[支払う側の視点]では、もしかしたら、
・・・支払う報酬を【給料にする】と源泉所得税を徴収して翌月の10日までに納付しなければならないし、労務の問題を無視することはできなくなる。また、消費税の計算上、課税仕入れにならないから増税になる。でも【外注費にすれば】一切の源泉徴収事務は不要となり、手続き面と管理面での煩わしさがなくなる。何より、消費税が【節税】できる。
だから【外注費で処理したい】と、思っている・・・かもしれません。

さて、この問題を解決する判定基準として【支払う側の視点】が争点となった【最高裁平成27年判決(塾講師等に支払った労務の提供等の対価は外注費ではなく給料とされた事案)〔※1〕】があります。なお、この判決では【受け取る側の視点】が争点となった【最高裁昭和56年判決(弁護士の顧問収入は給与所得ではなく事業所得とされた事案)〔※2〕】を引用しています。
何れの判決でも、事業所得に該当するには【自己の計算と危険において、独立性、有償性、反復継続して遂行する意思、社会的地位】などの要素が求められました。
一方で、給与所得に該当するには【雇用契約またはこれに類する原因、使用者の指揮命令(=従属性)、何らかの空間的・時間的な拘束の存在】などの要素が求められました。
このほか、納税者の主張に対する検討として、
①報酬が一定の日時に定額で支払われていること【だけでは外注費(=事業所得)に該当しないとは判定できない】ことや、
②源泉所得税が10%控除されていること、外注費であるとの認識または意思で業務委託契約を締結していること(=当事者の認識を重視すること)、受け取る側が事業所得で申告していること、受け取る側が義務なくして何らかの費用を負担していること、労働基準法の適用がないこと、過去の税務調査において給料とすべきとの指摘がなかったこと【だけでは給料(=給与所得)に該当しないとは判定できない】こと、
なども踏まえて、所得区分を【総合的に】判断しています。

このように、受け取る側の個人が確定申告をすることだけでは丸く収まらない【外注費か給料か=事業所得か給与所得か】の問題。業務形態が多様化している中では、単純に解決できる論点でないことは間違いありません。そのため、一般抽象的に分類すべきではなく、また、特定の要素のみをもって分類をせず、全てを個別に検討する必要があると言えます。
では、改めて、契約にあたって確認をすべき点は何でしょうか。
[受け取る個人側の心構え]
事業所得の意義で【自己の計算と危険において~】と表現されるように、まずは、自身が個人事業主であることを表明し、労務の提供等にあたっての立ち位置を確立することが重要です。そして【受け取る対価が事業所得または給与所得のどちらであるかを認識したうえで】契約を締結することが必要です。この点、個人事業主からの発信であることがポイントと考えます。
所得区分の判定を【申告時期になって検討すべきこと】と勘違いしませんように・・・。
[支払う法人側の心構え]
雇用契約か請負契約かなどの【契約の実態】と【契約書の形式】とに【ズレ】がある場合に、所得区分の判定が問題となります。仮に外注費で処理することに一定のメリットがあるとしても【外注費ありきの契約書】を主導しないように、そして主観的に判断しないように【支払う対価が外注費か給料かをハッキリさせたうえで】契約を締結するべきと考えます。
この点、対価の支払い時には源泉徴収義務が発生してしまいますから・・・。

なお、この問題は法人が支払う場合に限定されず、個人事業者が個人に支払う報酬についても想定されます。そして、複数税目を巻き込んでしまうテーマであることから【会計】に分類しました。

<参考>所得税法第27条、第28条、第183条、消費税法第30条、税務訴訟資料第265号-107(順号12690)〔※1〕、最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁参照〔※2〕