コラム[cf.]

2019-11-13 22:52:00

ハッキリさせようみなし役員【法人税】

役員給与の損金不算入の規定だけみても、何かと制約を感じてしまう【役員】の取り扱い。
会社法等の役員よりも法人税法上の役員の範囲は広く【みなし役員(みなす役員)】という区分があります。みなし役員とは、同族会社の使用人のうち株式の所有割合の判定において50%と10%と5%の3つの株主基準の全てを満たしていること、そして【経営に従事している】ことの要件に該当する者を言います。

例えば、経営は先代夫婦(長男の父母)と長男夫婦という典型的な同族会社を考えてみます。
長く、父が個人経営でやってきたところ、節税や後継を考えて法人成りすることはよくありますが、法人設立にあたり、とりあえず株主と役員登記は先代夫婦と長男としたものの、先代の高齢とともに経営の主導は徐々に長男夫婦に移っているケース。
みなし役員の判定では、要件の何れか1つでも該当しない場合は法人税法上の役員とみなされませんが、同族会社の場合、その者が会社の株主でもなく役員として登記されていない使用人であったとしても、その者の配偶者が一定数を超える株式を有していて、その者が会社の経営に従事しているときは役員とみなされる場合があるため、単純に登記がされていないことをもって法人税法上【役員ではない】という判断はできません。何となく、典型的な同族会社における【長男の嫁】の立ち位置を想像してしまいます。

その会社の経営に従事しているとは、経営方針に参画して、職制の決定、販売計画や仕入計画、製造計画、人事計画、資金計画、設備計画などの決定に、自己の意思を表明し反映させることを言うところ、平成28年3月31日公表裁決では、本人の所有割合だけで50%を超えた主要株主である代表取締役Eについて、Eが代表取締役でなかった(=主要株主である使用人であった)期間に、その法人の【経営に従事していた】かどうかが争点となりました。
原処分庁(課税庁側)は、代表取締役に就任する以前から経営に従事していたと認定し更正処分等を行ったものの、
[単なる一使用人にすぎなかったとは考え難い]からと言って、
[経営に従事しているものに該当すると認める]に足りないといわざるを得ない
との理由から、Eは法人税法上の役員に当たらないとされた裁決です。

背景に、Eは代表取締役に就任する前の一時期において、監査役や代表取締役を務めていたことがある特異な経緯があり、また、裁決における課税処分の立証挙証の責任が原処分庁にあるにもかかわらず、Eが経営に従事していたとする具体的な事実関係を証拠として提出できなかったなど、裁決における原処分庁の詰めが甘かった点は否めません。
結果、みなし役員と認めるに【足りないといわざるを得ない】という表現となっていますが、逆に、経営に従事【していない】ことを主張したいのであれば、法人自らがその主張を裏付けるだけの事実関係がなければなりません。経営に従事しているかいないかは、時の経過や状況に応じて変化することを覚えておいて下さい。

さて、前述の長男の嫁の立ち位置を考えてみます。
会社に携わった当初、何にも分からないお嫁さんには事務仕事からスタートというパターンは多いと思いますが、5年や10年も年月が経って、経営の全体もわかってきて、長男の嫁の発言もしっかりしてきて、経営の主導権が先代から自分達に移ってきているこの状況は、単なる事務員でしょうか。この点【単なる一使用人にすぎなかったとは考え難い=経営に従事している】との解釈にはならないため、中には、役員でなければ賞与の支払いや期中の昇給が柔軟にできるという発想のもと、経営に従事していないことを強調する方もいるようですが、経営に参画している、または参画させた方がよりプラスになると考えればみなし役員という状況は中途半端であり、登記手続きを経て、経営に従事【している】ことを確立させたいものです。そこに、登記費用が勿体ないという考えは抜きにして・・・。

全くの余談ですが、法人税申告書の添付書類である勘定科目内訳明細書について、記載内容等の見直しに伴う改正(平成31年4月1日以後終了事業年度から使用)がされました。このうち、役員報酬手当等及び人件費の内訳書は、その名称を役員給与等の内訳書に変更するとともに、代表者との関係欄の区分も変更されました。
これまでの区分のうち【婿、嫁】が削除され【子の配偶者、甥、姪】が追加されたようですが、昔から、続柄を嫁と表現することに何か引っ掛かりを感じていたため、どうでもよさそうなことでも、個人的には良くやったと感じています

<参考>平成28年3月31日公表裁決、法人税法第2条第15号、34条、法人税法施行令第7条第2号、71条1項5号

2019-09-15 22:21:00

身内の給料は納期特例のタイミングで【法人税】

『役員報酬をアップすれば法人税の負担は少なくなる。いつも、半年毎の納期特例の時期に帳簿を急いでまとめて、大凡の利益をみてから給料を決めている。給料は振込にせず、現金支払いにすれば可能。お客さんも喜んでくれるし、この方法が一番得をする』

・・・だそうです。何処かの研修会の休憩時間に、近くにいた方の会話と記憶しています。
法人税法の規定では、定期同額給与という考え方があります。役員報酬は、期中に増額や減額をすること自体は可能なのですが、そのタイミングによっては損金不算入となる場合があるため、すんなりと損金算入が認められるには、期首から3月を経過する日までに改定する必要があります。
中小企業の殆どが、期首から2月以内(=前事業年度の期末から2月以内)に、法人税の申告時期に合わせて定時株主総会を開催して、それ以後の増額改定を決議するというのが一般的ですが、納期特例のタイミングで役員報酬を決めるとは、遡って定期同額給与に当てはまった【ことにしよう】と思ったのでしょうか。
隠蔽や仮装という点でダメなのは勿論ですが、敢えてその部分は触れずに別な視点から、
役員報酬の増額は、本当の[節税]になっているのか、また、
役員報酬を増額することで[資金繰り]に影響はないのかを考えてみます。

まず、節税についての基本は、目の前にある税金の減少だけに拘らないことです。
法人税を払いたくないなあと思えば、何とかして法人の経費を探そうとします。これで、目先の法人税を減らすことができたらまずまずとしても、個人の税金が増える可能性を忘れてはいけません。
また、法人の支出という点からも、社会保険料がアップすることも考えられるでしょうし、個人の税金には住民税や法人が社会保険未加入の場合の国民健康保険料の増加も含まれます。特に、個人の税金等は課税時期が翌年にズレてしまいますので、こういったタイムラグも含めて、法人の支出増加を含む節税額と個人の節税額を比べて、法人の節税額等が大きいのであれば、ようやく役員報酬をアップして節税効果があったと言えます。

次に、資金繰りについてです。
法人税は勿体ないという発想から、赤字にしてまで役員報酬を多額に支給するケースがあります。
役員報酬を満額払えていればいいのですが、中には、役員借入金を充てている会社が見受けられます。結局、赤字なので法人税の節税に繋がったようには見えますが、反面、累積赤字と役員借入金(負債)は増えてしまいます。この点、身内からの借入金なら増えてもどうにかなるとか、いつか役員借入金を放棄してもらえばいいとか考えてしまいますが、これはこれで別の問題があることも理解しておかなければなりません。
また【利益が出ている=資金繰りが順調】とは言い切れません。黒字にはなっているけれども、銀行借入金や割賦未払金の返済などで資金繰りはギリギリという、所謂、黒字倒産を心配してしまいそうな会社もあります。節税対策のつもりが資金繰りを圧迫させる原因になる点も考えなければなりません。

さらに、節税効果の範囲を役員の相続税や贈与税の増減まで広げて考えると、手っとり早く目先の法人税がどうにかなればいいというものではなく、逆転もありうるということです。こんなときは【〇〇税専門】とか【〇〇税に特化】みたいなアピールは敢えてしなくても、様々な税目を想定した節税シミュレーションの話題になれば、遡及してどうのこうのというミラクルな方法より話は盛り上がると思います。
また、比較する数値がでたらめでないことが肝心ですが、そうすると【現状で法人税と個人の税金等の負担はそれぞれいくらですか】という問いに答えられる状態でなくてはなりません。現状把握がきちんとできているかということです。余談ですが、何らかのシミュレーションをするにあたり、今すぐ差異を知りたいがために現状把握を省略して仮定の金額を使おうとする方がいますが、これはおすすめしません。多少の時間はかかっても現状把握はキッチリとするべきです。
今回は役員報酬に絞りましたが、これらの問題は、法人の必要経費や資産の取得など支出を伴う全てに置き換えることができる考え方です。一番得をするのは、節税、資金繰り、複数税目、現状把握をセットで捉えたときでしょう。

前述の会話をされていた方が同業者であることは間違いありません。幹部なのか、教わり方を間違ったスタッフなのかは分かりませんが、何れにしても、まだこの手の需要があるのかと驚いてしまいます。税理士でないことを願いますが、それにしても、人は何でこんなに喋りたがるのでしょうか。自慢できる内容でもないのに、聞かされた相手も困るかもしれないのに、隠蔽とか仮装とか以前に、本当に残念なのは何でもペラペラ喋ってしまうところなのかもしれません。
そもそも、色々なことを間際になって何とかしてくれ精神でやってこれて、これで十分と考えている会社も会社ですが、身内の中でお金を回すことが最善策とは限らず、家族経営の中小企業こそ、このあたりの修正はし易いと感じます。まずは、どんぶり勘定をどうにかしていきましょう。お伝えしたいことは結構あります

<参考>法人税法第34条1項1号、法人税法施行令第69条1項1号

2017-08-04 10:54:00

役員の背広代等は経費になる【法人税】

【社長のスーツは経費になりますか】という質問が、まだまだあるようです。この質問に対して、経費には【なりませんとだけきっぱりと言う】のがよいのか、経費には【なりますよとだけ言って期待を持たせる】のがよいのか、伝え方は様々です。
さて【役員の背広代等(=スーツ、ワイシャツ、ネクタイ、靴など)は経費になるか】という質問に対しての回答ですが、
[経費には]なります。経費にはなるのですが、同時に、
[役員個人に所得税が課税されること]と、法人税の計算における[損金には算入されないこと]について理解しておく必要があります。

まず1つ目は、個人の課税関係です。背広代等の給付を受けた個人について経済的利益が発生するかどうかの判断が必要になりますが、経済的利益がある場合は、個人に給与を支給したのと同様の課税をしなければなりません。
この点、所得税法では非課税所得を列挙していますが、その中に【制服その他の身回品の支給または貸与】があります。一見、背広も制服と捉えがちですが、ここで言う制服は、①職務遂行上の必要性、②使用者自身の業務上の必要性、③専ら勤務場所のみにおいて着用するものとの要件から、例えば警察職員や消防職員、鉄道職員などの制服のほか、事務服や作業服などが該当します。なお、背広代等は、私服として職場以外でも着用できると考えられることから、非課税とされる制服には該当しません。結果、現物支給に対して個人の所得税が課税されてしまいます。

2つ目は、法人の損金算入についてですが、役員給与の損金不算入規定のうち、定期同額給与の判断です。前述のとおり、給付を受けた個人側の非課税判断で、役員個人に対する経済的利益とされた場合は、役員に給与を支給したのと同様の効果となります。この点、背広代等の支給は定期同額給与とされる経済的利益にも該当しないため、損金に算入される給与とはならず損金不算入となってしまいます。そもそも会社が負担すること自体は自由ですが、結果として法人税の節税効果は期待できません。

さて、何だかこうなると【経費になる】という表現は【支出した場合の勘定科目は福利厚生費でいい】という程度の意味でしかなくなります。また【経費になれば節税できる】と期待して質問したつもりなのに、単に【会社で負担してもいいか】という程度の質問に置き換わってしまい、本来求めている【節税効果】の話題でもなくなってしまいます。
そうすると、支給に伴う法人と個人の課税関係を理解したうえで会社が負担することに決めたのなら別ですが、役員の背広代等は経費になるかという質問があったときは、やはり、
【役員に対する背広代等の支給については、法人の損金には算入されず個人に税金がかかるため、結果として節税効果はないと考えられることから、会社がその支出を負担することはないでしょう】と回答するのがよいのではないかと考えます。経費にして節税したいという希望は普通に持つでしょうし、知りたい側はシンプルにイエスかノーかで言ってもらった方が分かり易いのかもしれませんが・・・。

ところで、例えば建設業の経理を考えた場合、但書に【作業着代として】という領収書があったら如何でしょうか。あわせて、帳簿にも同様に記載されていて、更に自計化により同様の摘要が入力されていたとしたら・・・。これを、福利厚生費勘定で処理していたとしても、業種的に何ら不自然な点はないという思い込みも手伝って、本当は前述のような役員の背広代等の支出だったとしてもそのことに気づくのは簡単ではないでしょう。結果、法人の損金不算入も個人に対する課税も漏れたままとなります。こんなことを考えると、基本中の基本ですが、領収書の但書も軽く考えてはいけないように思います・・・。

<参考>所得税法第9条第1項第6号、所得税法施行令第21条第2号、第3号、所得税基本通達9-8、法人税法第34条第4項、法人税法施行令第69条第1項第2号、法人税基本通達9-2-9、9-2-10

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