コラム[cf.]

2017-09-15 15:06:00

何を取り壊したか【所得税】

建物の取り壊しに関する費用としては、取り壊しの際に実際に支払った【取り壊し費用】と、取り壊すことによって滅失する(=ゼロになる)建物の帳簿価額に相当する【資産損失】があります。
今回は、取り壊し費用について考えたいと思いますが、広く知られている解釈として、土地を譲渡するための取り壊し費用は【譲渡費用】、古家付きの土地を購入し直ちに古家を取り壊した場合は【土地の取得価額】、アパートの建て替えのために取り壊す場合は不動産所得の【必要経費】となります。
判断の基準としては【何を】取り壊したか(=対象物)ではなく【何のために】取り壊したか(=目的)がポイントとなります。では【アパートの建築のため】に【空き家】を取り壊した場合はどうでしょうか・・・。

これを、①【目的という視点】から見ると、アパートの建築による将来の不動産所得に対応する費用と捉えれば必要経費になりそうです。また、必要経費にならなくても建物の取得価額に算入されて、間接的に費用化されるとも捉えることができそうです。
他方、②【対象物という視点】から見ると、空き家は【不動産所得を生ずべき業務の用に供されている資産(=業務用資産)ではない】ため、直接の必要経費にも、建物の取得価額にも算入されないという捉え方ができます。
・・・結論は、②の判断のとおり、不動産所得の必要経費にはなりません。支払い時の経費にも減価償却費としても経費にならず、取り壊し費用は家事費として処理されます。この点、相続で取得した建物を取り壊してアパートを新築するというようなケースが考えられるところですが、新築するアパートの建築代金の中には、この類の取り壊し費用が含まれている場合がありますので、この部分を除外する作業を忘れないようにしなければなりません。

さて、もう一つの事例として【同族会社に貸し付けている事務所建物を取り壊して、新たな事務所を建築する】場合はどうでしょうか。
社長が個人で建物を建てて同族会社に賃貸(=社長の不動産所得が発生)しているケースですが、同族会社は現に建物を業務の用に供している状態を想定します。
一見、業務用資産の建て替えなので【目的という視点】からも【対象物という視点】からも、単純に社長の不動産所得の必要経費になると思いがちですが、気をつけなければならない点があります。それは【家賃の支払いがきちんとされているか】です。
よくあるパターンとしては、貸付の当初は家賃の支払いをしていたけれども、同族会社の業績が悪化したことや、社長の所得税の負担を軽減したいことなどを理由に【家賃の支払いをしていない】場合があります。
これが、賃貸借契約の継続を前提として、単に賃料の支払いが免除されている状況なら別ですが、殆どの同族会社の場合は、賃貸借契約が解除されて、使用貸借契約が成立している状況になっていると思われます。
結果、賃貸借契約であれば必要経費になる余地はあっても、使用貸借契約で貸し付けられている建物は【不動産所得を生ずべき業務の用に供されていない資産(=非業務用資産)に該当】し、その取り壊し費用を必要経費に算入することはできません。
勘違いしそうな点としては【何のために】でも【何を】でもなく、旧事務所が【業務用資産に該当するかどうか】ということです。結果的には、前述の【空き家の場合と同様】の取り扱いとなりますが、この場合、いくら【身内】であっても、適正な賃料のやりとりを軽く考えてはいけません。

取り壊し費用を必要経費にするにあたり、
取り壊したものは何かについては、業務用資産であることを[前提]としても、
必要経費、譲渡費用、取得価額、家事費の何れかに分類されるかについては、実は、取り壊しの時期や、資産の規模の違いなど、様々な[場面で異なる]取り扱いとなります。
そして、何が目的だったかを含め、取り壊すことになった経緯が[決め手]となります。
何れにしても、資産損失を含めた建物の取り壊しに関する費用が必要経費になるかどうかは納税額に大きな影響を与えるため、とても重要な論点と言えます・・・。

<参考>所得税法第26条第1項、第37条第1項、第45条第1項、民法第593条、平成28年3月3日公表裁決