コラム[cf.]
8%とか10%とか【消費税】
消費税が10%にアップするまであと少し。
あれだけの【振り】があった分、準備期間としてはかなり長かったと思いますが、レジの準備、各種補助金のことや販売・会計システムの整備、キャッシュレス決済のことなど、この大改革は様々な場面に影響を及ぼしてきました。
更に、取引の現場に加え、消費税の申告書を作成する際に気をつけなければならない売上税額や仕入税額の計算、インボイスのことを考えると、まだまだやらなければいけないことは沢山あり、税理士にとっては消費税への【接し方】が大きく変わるように思われます。
そんな中、改正消費税の研修会は色々開催されているのですが、先日、私も受講してきました。
何となく、8%(=軽減税率)の対象となる取引はどういったものか、10%(=標準税率)とされる取引との区別はどうか、などがテーマと予想しながら受講したのですが、印象に残った部分は【価格表示】の考え方でした。
例えば、出前もやる飲食店で、かつ丼を税抜価格(=本体価格)800円で提供する場合に、今どきの模範解答に当てはめるとすると、
【店内飲食】であれば、標準税率10%適用のため、税込価格(=支払金額)は880円(このうち消費税相当額は80円)となり、【出前】であれば、軽減税率8%適用のため、税込価格(=支払金額)は864円(このうち消費税相当額は64円)となるでしょう。
ただし、講師は【何でだね?】・・・と。出前の方が人件費や配達のガソリン代がかかるのに貰う金額は少ないって【おかしくないかい?】・・・と。
あくまでも、8%と10%の区別は対象品目の視点から見た区別であり、常に2種類の支払金額を意識する必要があります。他方、価格設定は任意であるという視点で、前述のかつ丼を店内飲食と出前に関係なく、税込価格(=支払金額)880円で統一して提供するとした場合は、常に1つの支払金額を意識するだけでいいので、
【店内飲食】の税抜価格(=本体価格)は、標準税率適用のため800円(消費税相当額は+80円)であり、【出前】の税抜価格(=本体価格)は、軽減税率適用のため815円(消費税相当額は+65円)であって、税抜価格(=本体価格)に差が生じることになるものの、とにかく880円を支払えばいい。とてもスッキリしています。勘違いしそうですが、今回の軽減税率導入にあたっては、
[軽減税率対象品目(=8%適用するもの)と、それ以外(=10%適用するもの)の使い分けは必要]ですが、これらの
[税抜価格(=本体価格)を同一にする必要はない]のです。
所謂、価格表示の考え方で、実質は、出前を店内飲食に見合うよう値上げしたかたちになります。
当然、税込価格(=支払金額)を統一するには、税抜価格(=本体価格)を同一にせず差を設けた合理的な理由が必要と指針では示していますが、講師の問いかけ同様、通常の理由であれば理解できる範囲内と思われます。
また、税込価格(=支払金額)を統一することで8%と10%を区別することなくどちらか一方の税率で集計し申告、納税をしていいということにもならないので、全部解決という訳にはいきませんが、この点も、レジ設定や販売・会計システムの設定次第で十分カバーできるように思われ、丁度、税理士がお手伝いできる領域と考えています。
軽減税率導入の背景に【低所得者への配慮】というキーワードがあります。
仮に、税込価格(=支払金額)を統一した場合は、値段が高く感じられるとか、損をしたように感じられるという意見など、表面上のメリット、デメリットも気にはなりますが、何れにしても【できるだけ安く】という気持ちを持ちつつ【妥当な金額】の感覚は忘れないようにしていきたいものです。
余談ですが、この講師はパソコンを購入する際に、税抜表示のB店よりも、税込表示のY店から購入するとのことで、多少高くなったとしても、最終的に支払う金額がハッキリしているY店を選ぶという拘りがあるそうです。これも支払う側の気持ち一つ、潔い
<参考>消費税法第63条、消費税転嫁対策特別措置法第10条1項、消費税の軽減税率制度の実施に伴う価格表示について(平成30年5月18日:消費者庁・財務省・経済産業省・中小企業庁)
親族が負担した資産の取得費【消費税】
父と子が生計一の関係で、子が個人事業主として事業を行うにあたって、父名義の建物を【無償で使用(=使用貸借)】しているときでも、父名義の建物に係る減価償却費や固定資産税、保険料などの維持費(=これらを親族の有する資産に係る必要経費に算入されるべき金額と表現します)を、子の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することができるという取り扱いがあります。
これは、所得税法第56条の規定を受けた所得税基本通達56-1の規定ですが、この規定を適用しようとするときは、同時に消費税の取り扱いを確認しなければなりません。そもそも、
所得税法は[必要経費に算入することができるか否か]の視点からみた取り扱いであり、
消費税法は[課税仕入れに該当するか否か]の視点でみる必要がある取り扱いのため、
1つの支出であっても、所得税と消費税では、別個に異なる判断が求められます。
この点、消費税法では、所得税法第56条に見合う規定がないことから、前述の例であれば、子が父に対価を支払っていなくても、これらの維持費を子の所得税の計算上、必要経費に算入することは可能ですが、反面、子の消費税の計算上は課税仕入れにすることができません。
消費税は、あくまでも、個人事業主が自らした課税仕入れでなければ、仕入税額控除は認められないのです。
さて、会計ソフトが普及しているなか、ご自身で確定申告書を作成している方は多いと思います。それぞれが独自の便利機能を搭載していて、手書きと比べれば格段に有難いのですが、消費税の自動計算機能はその1つでしょう。
そこで気をつけたいのは、所得税法第56条に当てはめて必要経費にするために仕訳を入力する場合です。当然、勘定科目ごとに消費税区分を初期設定するときには、その必要経費が【所得税法第56条に関連するものかどうかを考慮しません】ので、実際の入力画面での補正が欠かせませんが、便利さに頼りすぎると、気にすることなく素通りしてしまいそうです。
前述の例であれば、固定資産税や保険料は課税仕入れではないため、何れにしても影響はないと言えるかもしれませんが、建物や車両などの固定資産の取得費だったらどうでしょうか。多分、建物勘定や車両運搬具勘定に初期設定された消費税区分は課税仕入れになっているでしょうから、スンナリと仕入税額控除をしてしまうと、大きな間違いとなります。
所得税と消費税で異なるこれらの取り扱いでは、親族の有する資産に係る【維持費】だけに限らず、固定資産の【取得費】も同様、親族が負担した取得費を、個人事業主が負担した取得費とはできないため、個人事業主の消費税の計算上は課税仕入れにすることができないのです。
何だか、所得税の節税を考えるあまり、減価償却費を計上するために建物や車両の取得仕訳を入力したところまではいいのですが、消費税区分を課税仕入れとしてしまっては・・・。改めて、便利機能が満載の会計ソフトは、入力内容が間違っていないかどうかの【適正な判断】まではしてくれません。あくまでも、ご自身が入力した内容に従って【面倒な計算】をしてくれるだけなのです。
確かに、最近の会計ソフトは【簡単】とか【簿記の知識はいらない】のアピールが強すぎるため、適正な判断までしてくれると勘違いしてしまうのかもしれませんが、自計化をされる際の前提と言えますのでご注意下さい。
ところで、以前のコラムでは、親族の車両の減価償却費【2017.09.08会計】として、償却方法までも一緒でいいとは限らないことについて記述しましたが、1つの支出に対する取り扱いについて、他税目間でのズレや、同じ税目でも勘定科目によるズレは他にも考えられます。
同じ生計一親族絡みだから【取り扱いが異なることはないだろう】との思い込みをしないように気をつけましょう。
<参考>消費税法第30条第1項、所得税法第56条、所得税基本通達56-1