コラム[cf.]

2017-10-06 15:33:00

書面によらない贈与【贈与税】

・・・そもそも父の指示は絶対であり、その指示には逆らうことができず、父が金地金をはじめ色々な財産を簡単に【あげる】と言ったり、既にあげたものを突然に【返せ】と言うなど、何事にも思いのまま無理、無茶なことを言う人物であったことからすると・・・これは、父から子にされた金地金の贈与時期が争われた【京都地裁平成27年10月30日判決(一部認容)(確定)〔※1〕】の一文です。
そこで、贈与となると贈与税は【課税されるのか】または【いくらになるのか】が大きな関心事と言えますが、この点【贈与税の納税義務の成立時期】については、国税通則法で、
[贈与された時]ではなく、
[贈与~による財産の取得の時]と規定しています。
そして、そもそも【贈与】については、民法第549条に続いて、民法第550条で次のとおり規定されています。
【民法第550条(書面によらない贈与の撤回):書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない】

前述の訴訟の争点は、父から【書面によらない贈与】により取得した金地金の全部を、子は平成18年に他に売却したのですが、その【贈与時期を巡り、納税者側である子は平成6年、平成12年、平成16年の各年であると主張し、課税庁側は全部が平成18年であると主張】しました。この点、訴訟の発端である【平成25年10月7日公表裁決】では、課税庁側の主張が全面的に認められて、贈与は平成18年であるとしています。
その国税不服審判所の判断を要約すると【仮に、子がその主張する時期に本件金地金を父から受け取っていたとしても、父の人物像からすれば、いつでも返還を求められる可能性があり~本件金地金を、自己の財産として現実に支配管理し自由に処分できる状態に至ったものとはいえず、贈与があったとしてもその履行があったものとまではいえない=まだ贈与により取得していない】→【本件金地金を他に売却することで、もはや父の意向のみでは返還を求めることはできなくなり、子は売却した時に、本件金地金を、自己の財産として現実に支配管理し自由に処分できる状態に至った=贈与により取得した】としています。
一方の京都地裁平成27年判決では、主張立証責任の分担の観点から、課税庁側が【平成18年分の贈与として全部を立証しきれなかった】ことが判決の分かれ目となり、納税者側の主張の一部(ある意味、大部分と言えるかもしれません)が認められ、平成6年と平成12年にそれぞれ履行は完了していることから、これらの各年を贈与による取得の時期(残りは平成18年)と判断しています。

結果的に、平成25年裁決で認められた判断は覆りましたが、課税庁側は【父の人物像を背景に、自己の財産として現実に支配管理し自由に処分できる状態に至った時】に拘って、取得の時期は【外形的かつ客観的に明らかな事実に基づいて判断すべき】と当初から主張してきました。
この点、贈与の場合の【財産取得の時期】については、相続税基本通達において、
書面によるものについては[その契約の効力の発生した時]とし、
書面によらないものについては[その履行の時]と規定しています。
確かに、親族間でされる書面によらない贈与では【履行】の曖昧さは否定できないところ、履行の完了に加えて【外形的、客観的、明らかな事実】で取得時期を判断しようとすると、少し乱暴な言い方になりますが【課税庁側の都合で、実際の贈与時期より明らかに遅い時期を贈与の時期と認定される恐れ】が生じます。
この【外形的、客観的、明らかな事実】という要件は、そもそも【贈与が成立しているか、いないかを判断する場合】に考慮されるもので、履行が完了して、民法第549条の【贈与が成立している状況での取得時期の判断】には必要ないのです。

何れにしても【書面によらない贈与は履行の完了前であれば撤回が可能】ということは、注意しなければなりません。履行が完了することで、贈与の目的とされた財産が確定的に移転し、受贈者は現実に担税力を取得するに至ったと評価できることから、贈与税の納税義務の成立時期を【口約束の状態】ではなく、財産の【取得の時】としているのです。
この点【書面によらない贈与の不確定な部分】を解決して【贈与の確実性】を担保するためには、贈与契約書を作成することや、書面によらない贈与についての履行があったことを確認する書類として【贈与確認書】を作成するなどの、手続き面での補完は必要です。また、贈与税の納税義務の成立時期の【早い、遅い】は重要な論点であり、今回の判決のとおり、課税庁側の主張が常に適正とは限りません。そうなると、他の税目にも共通することですが【課税の便宜のための判断に任せる】ことのないように、前述の書類の整備を含め【主張できるように準備】をしておくことは大切です。

さて、税金の場面においては【様々な父親像】が登場するため、色々とリンクさせながら判決文を読んだのですが、なるほど、ストーリー性のあるものでした。個人的には、贈与される側になることはないと思われるところ、将来、もし贈与する側になったときには【適正な贈与】に向けて行動することはできそうですが、そんなことよりも【どんな父親】になっているのか・・・気になります。

<参考>国税通則法第15条第2項第5号、相続税法基本通達1の3・1の4共-8(2)、税務訴訟資料第265号-167(順号12750)〔※1〕、平成25年10月7日公表裁決