コラム[cf.]
大工、左官、とび職等の方【所得税】
平成21年に【大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて】という法令解釈通達が制定されたことに伴い、従来の通達は廃止されました。
これは、以前のコラム(個人で確定申告をする【2017.09.22会計】)でも取り上げた、所謂【事業所得か給与所得か問題】に関係しますが、従来の取り扱いが相当根付いているのか、まだ、古い通達の取り扱いのまま申告をされているとの話を聞きます。
原則的な所得区分の判定には【雇用】と【請負】の解釈が必要です。この点、民法において次のように規定していますが、結果、雇用であれば給与所得と、請負であれば事業所得と、それぞれ判定できることになります。
[第623条]雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる
[第632条]請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる
そして、この個別通達は、大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得区分は、その対価が雇用契約または請負契約若しくはこれらに準ずる契約のうち、何れかに基づくものであるかによって判定するところ、契約によって所得区分が判定できないときの判定基準を示したものという位置づけとなります。
以下、報酬を支払う側を支払者と、報酬を受け取る者を本人と表現し、次の【1】~【5】の事項は、本人にとってその報酬が事業所得に【該当すると判定するための要素】となる点を踏まえて、個別通達の内容を確認して下さい。
【1】他の者が代替して業務の遂行または役務を提供することが認められること
・・・不測の事態により、本人が作業に従事できない場合の対処として、本人が自己の責任において他の者を手配し、役務を提供した者が誰であるかにかかわらず、報酬は当該他の者にではなく本人に支払われる(他の者には本人から支払われる)ケースです。一方、支払者の責任において他の者を手配し、報酬も支払者から当該他の者に直接支払われるケースでは、民法第625条第2項の規定からも、給与所得に該当するといえます。
【2】時間的な拘束を受けないこと
・・・支払者から仕事先や作業時間を指定されたり、報酬が時間を単位として計算されていることなどは、空間的または時間的な拘束を受けていることであり、給与所得に該当するといえます。なお、現場の状況を考慮した作業時間が指定されていたとしても、それは作業実施上の条件であるとされ、時間的な拘束に当たりません。
【3】指揮監督を受けないこと
・・・支払者側から作業の具体的内容や方法等の指示を受けて作業に従事している場合は、給与所得に該当するといえますが、例えば、他職種との工程の調整や事故の発生防止のための作業方法等の指示は、業務の性質上、当然に存在する指揮監督であり、支払者側からの指揮監督には当たりません。業務の完成に向けての連絡事項や周知徹底事項などとは異なります。
【4】すでに遂行した業務または提供した役務に係る報酬の支払いを請求できないこと
・・・民法第632条における【仕事の完成】と【結果に対する報酬】の当てはめです。例え不可抗力であったとしても、達成すべき仕事量が完遂されない状況にもかかわらず対価を減額されることがない、または請求できる場合は、給与所得に該当するといえます。
【5】材料または用具等を報酬の支払者から供与されていないこと
・・・支払者が所有する用具を使用せず、本人が所有する手持ち工具程度の用具に該当しない用具(=例えば、据置式の用具)を作業で使用しているのであれば、材料または用具等を供与されていることとは認められません。ただし、本件報酬に係る作業において、実際にその用具を使用していない場合は除かれるため、給与所得に該当するといえます。
この個別通達の解釈にあたっては、最高裁平成20年10月10日判決〔※1〕が参考となります。この事案は、法人が外注費として支払った報酬について、受け取った本人の視点となる所得区分の判定(=所得税)をもとに、支払者である法人側の視点から外注費の課税仕入れ該当性(=消費税)が争点となったものです。
結果、支払った報酬は給料に該当し、外注費として仕入税額控除を受けることは認められませんでしたが、注意しなければならないのは、前述の【1】~【5】の要素のうち、特定の1つの要素から判断を導くのではなく、あくまでも、各要素をもとに総合的に判断する必要があるという点です。
まずは、現時点でこの個別通達の存在と内容を知らない方は、ご自身の契約状況に当てはめたうえで、改めて判断して頂きたいところです。
一般的には、一筋縄ではいかない【外注費か給料か問題】の判断にあたり、支払者である法人側の要望にこたえる形での相談が多い顧問税理士という立場から、もしかしたら【外注費と判断できる内容の契約書の完成】を真っ先に考えて、外注費にすることが節税に繋がり色々と解決できるとの提案に偏ってしまいそうです・・・。この点、受け取る本人側に【その気】がなく、事業所得として確定申告をしなければならないことを【煩わしい】と思う者もいるでしょう。そもそも、外注費に【することがベスト】であるとの思い込みは禁物です。
<参考>民法第623条、632条、625条第2項、所得税個別通達(平成21年12月17日付課個5-5)、国税庁HPその他法令解釈に関する情報(個人課税課情報第9号他)、税務訴訟資料第258号-190(順号11048)〔※1〕
生計を一にする【所得税】
医療費控除や扶養控除、事業専従者の判定など所得税法でお馴染みの【生計を一にする】の意義。これは、相続税法や他の税目でも論点とされる重要な解釈ですが、その意義については、所得税基本通達2-47で、実務上の取り扱いを明らかにしています。
【生計を一にするの意義:所得税基本通達2-47】
法に規定する【生計を一にする】とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。
(1)勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
①当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
②これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
(2)親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。
・・・と定義し、一般的には、同一の生活共同体に属して日常生活の資を共通にしていることをいうものと解されています。ザックリと言えば【お金】の部分がポイントとなりますが、よく【財布が一緒】という表現もされるように、家族の食費や光熱費などの生活費のほか、学資金や療養費等(=生活費等と表現します)を、どのようにやりくりしているかが判断の分かれ目であり、必ずしも【一方が他方を扶養する関係】であることをいうものではなく、また、必ずしも【同居していることを要する】ものでもないということになります。
例えば、母と息子夫婦と孫1人の計4人同居家族の場合。このうち、家族全体の課税所得は、息子夫婦共働きによる給与所得で、孫は学生、母は亡くなった夫の遺産が多額にあるため家族の生活費等の一切を賄い、かつ、居宅は母名義でローンも家賃も発生しないと仮定した場合はどうでしょうか。
大人3人それぞれが、独立して生活費等を賄えそうな所得や財産があり、別生計のように見えなくもないですが、この点、前述の【必ずしも一方が他方を扶養する関係であることをいうものではない】という解釈に当てはめることにより、余程、明らかに互いに独立した生活を営んでいる(=別生計)と認められる特段の事情があるのでなければ、この家族4人は、お互いが生計を一にしていると判断することができます。
なお、母の貯蓄から賄うことを想定しましたが、これが、遺族年金や労災の休業補償給付などの定期的な非課税所得であったとしても、判断は一緒です。その収入の多寡だけでは生計を一にする判断に影響を与えません。
念のため、扶養控除の対象となる親族かどうかの判定は、38万円以下の所得要件の前に、生計一であることが前提となります。
さて、この生計を一にするという解釈を巡っては、各種の控除や特例を適用したいために、
[生計を一にしている]ほうが、一般的には節税の恩恵が大きいと思われるところ、
[生計を一にしていない]ほうが、都合がよいという場面もあります。
前述の医療費控除や扶養控除、事業専従者の判定などは、生計一だからこそ適用できる規定とはなりますが、仮に、親族に対して支払った賃料や退職金等の対価を必要経費に算入しようと考えたり、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の適用における譲渡先である特殊関係者を考えたりするときなどは、別生計でなければなりません。
この点、最高裁平成14年6月28日判決〔※1〕は、納税者側が、居住用財産を取得または建築したのを機に【別生計となった】との主張に対して、課税庁側の主張である【生計を一にする関係に変化はなかった】と認定された事案です。
この事案では、別生計と認められるには、収入の多寡そのものではなく、その収入を【自ら独立して管理していたか否か】が重要であり、加えて、親族がそれぞれの生活費等の全部または主要な部分を【共同して支弁し合う(=共通の財布から支出する)関係にない】ことも求めています。
当然、就寝場所や食事のとり方など、他の要素を含めた総合的な判断は欠かせませんが、同居で生計一の場合の当てはめはそれほど難しくはないものの、別居で生計一であることの立証のほか、同居で生計別であることの立証は、主観的な判断にならないようにしなければなりません。何れにしても、日頃のお金に対するメリハリは、結果として表れると言えます。
ところで、親の持ち家に、長男だからと世間一般で言うところの当然の流れで同居しているという家族もいるでしょう。親子3世代で一緒に住んではいるけれども、食事の好みは違うし、家族全員が集っての団らんも珍しく、必要がなければ特に会話をすることもなく、お互いがあまり干渉し合わないため、お互いの行動予定をハッキリわかっていないような、大凡、関係が濃いとは見られないような家族もイメージできます。
こんなとき、お金の部分を除けば【どこが生計一なのか、別生計だよ】と言ってしまいそうですが、前述の解釈に当てはめた場合は生計を一にすると判断されることはあります。あくまでも【税金は置いといて】という視点ではありますが、不思議な感じはしてしまいます・・・。
<参考>所得税基本通達2-47、税務訴訟資料第252号(順号9153)〔※1〕
取り壊し費用と資産損失と規模【所得税】
以前のコラム(何を取り壊したか【2017.09.15所得税】)では、取り壊しの時期や資産の規模の違いにより、取り壊し費用は場面で異なる取り扱いがされる点について記述しました。
今回は、資産損失について、不動産所得が赤字となってしまう場合の【制限がされる独特な処理】を確認しようと思います。
さて、建物の取り壊しにまつわる費用と損失については、処理の分かれ目となるポイントが2つあります。1つ目は、費用と損失の区分ですが、
建物を取り壊すことによって資産そのものについて生じた損失を[資産損失]と言い、
この損失には、取り壊しに伴い支出した解体や除去の費用である[関連費用]は含まれないという点です。
なお、資産損失は【未償却残高】とも表現し、取り壊しによってゼロになってしまうその建物の帳簿価額(=減価償却後)をいいますが、関連費用を除く資産損失だけが制限されることになります。
そして2つ目は、不動産の貸付けが事業的規模か否かという点です。
事業的規模でない場合を【非事業的規模】とか【業務的規模】と表現し、その判定には【5棟10室】という基準があって、例えば、アパートなら10室以上であれば事業的規模と判断できるのですが、この点、不動産の貸付けが、
事業的規模であるときの資産損失は[全額]が必要経費に算入されるのに対して、
事業的規模でないときの資産損失は[その年分の不動産所得を限度]として必要経費に算入されるという違いがあります。
では、資産損失について、不動産所得が赤字となってしまう場合を当てはめてみようと思います。例として、次の貸家1棟を取り壊した場合をイメージして頂きたいのですが、念のため、用語の使い方として【控除する】とは【経費勘定で計上(=必要経費に算入)する】ことを意味します。
①関連費用(取り壊し費用)・・・185万円
②資産損失(未償却残高)・・・120万円
③不動産所得の金額(①と②の金額を控除する前)・・・200万円
これを制限がないものとして単純に計算すると、不動産所得の金額は▲105万円(=③-①-②)の赤字ですが、例は、事業的規模ではないため、必要経費の算入が制限される独特の処理をしなければなりません。
処理の順序としては、関連費用①は制限を受けず全額が必要経費に算入されることから、資産損失控除前(=関連費用控除後)の不動産所得の金額は15万円(=③-①)となります。
次に、資産損失②はその控除前の不動産所得の金額(=15万円)を限度とすることから、資産損失120万円のうち15万円を控除します。この結果、最終的な不動産所得の金額は0円(=マイナスにはなりません)となり、資産損失120万円のうち控除しきれなかった105万円は必要経費に算入することができません。切り捨てられてしまい、勘定科目であれば事業主貸となるでしょうし、他に活躍することはないということです。
また、応用として、仮に例の関連費用①が230万円だった場合、資産損失②を控除する前で既にマイナスですが、結果、不動産所得の金額は▲30万円の赤字であり、資産損失120万円の全額が、必要経費として何も活躍しないということになってしまいます。
上記の取り扱いは、建物の全部を任意で取り壊した場合を想定しましたが、建物の一部の取り壊しや災害等による損失の別であったり、事業的規模か否かの判定時期など、更に違った切り口で考えてみると、建物の取り壊しにまつわる費用と損失の注意点は、まだまだあります。
身近なところでは、社長が同族会社に有償で貸し付けていた店舗1棟を取り壊した場合に置き換えて考えることができますが、必要経費の算入が制限される独特の処理をしなければならない点は同じです。反面、不動産所得の金額が赤字にならない場合や、不動産の貸付けが事業的規模である場合は、資産損失に制限はありませんので、混同しないようにして下さい。
この基本的な考え方をもとに、他の注意点については、本年分の確定申告に間に合うように確認したいと思います・・・。
<参考>所得税法第37条、51条、所得税基本通達26-9、51-2
親族名義の生命保険料控除証明書【所得税】
この時期に多い【保険のハガキ】にまつわる話です。医療費控除に匹敵するくらい、皆さんもよく知っていて【ハガキがいくつあっても10万円を超えたらもういらないよ】とか【家族のハガキも使えるんだよ】とか、色々な会話が聞こえてくるのですが、今回は、年末調整における生命保険料控除について、ひょっとしたら勘違いしているかもしれない点を3つ確認したいと思います。
例えば、生命保険料控除のうち旧制度の一般用を使って、妻が年末調整で生命保険料控除を受ける場合をイメージしてみて下さい。控除額の上限5万円を目指そうとすると、年間支払保険料または掛金(=保険料等)が10万円以上なければならないのですが、妻名義のハガキ1枚分では10万円に満たないときに、少し言い方は乱暴ですが【家族の分もかき集めて提出している】ということはないでしょうか・・・。
以下、契約例は【契約者:夫、被保険者:夫、死亡保険金受取人:妻、年間支払保険料等:12万円】で、夫は同様の契約が複数件あるものとします。
さて、確認したい点の1つ目は【親族の要件】です。
まず、生命保険料控除のうえで親族が要件となるのは、保険金や共済金その他の給付金(=保険金等)の【受取人】の全てが、保険料等の負担者本人またはその配偶者その他の親族であることです。ここに【生計一の親族】であるとか【契約者が親族】であるという要件はありません。あくまでも、確認すべき親族は【受取人】であって、この点で、前述の【家族のハガキも使えるんだよ】という意味を考えると、
控除を受けようとする者(=妻)と[契約者(=夫)が家族]だから使えるのではなく、
控除を受けようとする者と[受取人が家族(=妻本人)]だから使えることになります。
なお、保険のハガキには受取人が誰であるかの記載がされているとは限りませんし、また、当初契約後に受取人に変更がある場合も考えられますので、勤務先に提出する時点での受取人を確認するように注意して下さい。
そもそも、大前提として【生命保険料控除を受けることができる者(=本人)】とは、保険料等を【負担した者】をいいます。必ずしも、保険の【契約者(=ハガキの名義人)】が控除を受けられる訳ではなく、年末調整の場面であれば、誰が勤務先にハガキを提出して控除を受けようとする者であるかという点になります。なお、ここでハッキリさせておかなければならないのは、2つ目の確認となる【支払った事実】ですが、
控除を受けようとする本人が[支払った保険料等に限り]控除の対象となるのであり、
決して、家族なんだから本人が[支払ったことにしよう]という解釈は、認められません。
例えば、妻が保険料等を支払っていたのであれば、ハガキの名義人は夫であっても、妻は控除を受けることができますが、当然、夫が支払っていたにもかかわらず【既に1枚のハガキで夫の控除的には10万円を超えている】ことを理由に、残ったハガキを妻の控除分として使用することはできません。
では、前述のとおり保険料等の負担者と受取人の親族関係も問題なく当てはめて、妻が生命保険料控除の適用を受けたとして、将来、夫が死亡した際に取得する死亡保険金には、どのような税金がかかるでしょうか。これが、3つ目に確認をしたい点であり、1番の論点となりますが、結果としては、実際に保険料等を負担した妻の一時所得として課税されます。
このとき【契約者の死亡による保険金の取得だから相続税の対象になると思っていた】という認識であったのであれば間違いとなりますし、また、参考までに、前述の契約例で受取人が子であるときに、妻が保険料等を支払っていた(=生命保険料控除の適用を受けていた)のであれば、子が取得する死亡保険金は贈与税として課税されてしまいます。
一般的には、相続税の課税対象とされたうえで、生命保険金等の非課税規定(=500万円×法定相続人の数)の範囲内で無税に向かうという考え方が大半で分かり易いでしょう。
この点、保険料等の負担者が誰であるかに応じて、取得した保険金等の課税関係が異なることを理解されているのであれば問題ないのですが、そうでない場合にも【家族のハガキも使えるんだよ】と、目の前の生命保険料控除による満足を受けてしまっては、将来の課税関係で大きな勘違いをしてしまいます。
確かに、生命保険料控除を受ける時点と、死亡保険金を受け取る時点のズレという特徴から、取得した保険金等を【契約者が負担者であった】ものとして、相続税の課税対象と主張してしまうことも可能かもしれませんが、やはり、生命保険料控除の際に採用した【妻が支払った事実】は【夫が支払っていない事実】となり、将来受け取る保険金等の課税関係の裏付けにもなることを忘れないで下さい。
なるほど、親族が絡む課税の場面では、勘違いや目の前の節税効果を意識しすぎたがために、将来【~したことに】とか【~しなかったことに】というような、後付けの課税を主張することのないようにしたいものです。
<参考>所得税法第76条、第34条、相続税法第3条、5条、国税庁HP質疑応答事例(妻名義の生命保険料控除証明書に基づく生命保険料控除)
親族が負担した資産の取得費【消費税】
父と子が生計一の関係で、子が個人事業主として事業を行うにあたって、父名義の建物を【無償で使用(=使用貸借)】しているときでも、父名義の建物に係る減価償却費や固定資産税、保険料などの維持費(=これらを親族の有する資産に係る必要経費に算入されるべき金額と表現します)を、子の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することができるという取り扱いがあります。
これは、所得税法第56条の規定を受けた所得税基本通達56-1の規定ですが、この規定を適用しようとするときは、同時に消費税の取り扱いを確認しなければなりません。そもそも、
所得税法は[必要経費に算入することができるか否か]の視点からみた取り扱いであり、
消費税法は[課税仕入れに該当するか否か]の視点でみる必要がある取り扱いのため、
1つの支出であっても、所得税と消費税では、別個に異なる判断が求められます。
この点、消費税法では、所得税法第56条に見合う規定がないことから、前述の例であれば、子が父に対価を支払っていなくても、これらの維持費を子の所得税の計算上、必要経費に算入することは可能ですが、反面、子の消費税の計算上は課税仕入れにすることができません。
消費税は、あくまでも、個人事業主が自らした課税仕入れでなければ、仕入税額控除は認められないのです。
さて、会計ソフトが普及しているなか、ご自身で確定申告書を作成している方は多いと思います。それぞれが独自の便利機能を搭載していて、手書きと比べれば格段に有難いのですが、消費税の自動計算機能はその1つでしょう。
そこで気をつけたいのは、所得税法第56条に当てはめて必要経費にするために仕訳を入力する場合です。当然、勘定科目ごとに消費税区分を初期設定するときには、その必要経費が【所得税法第56条に関連するものかどうかを考慮しません】ので、実際の入力画面での補正が欠かせませんが、便利さに頼りすぎると、気にすることなく素通りしてしまいそうです。
前述の例であれば、固定資産税や保険料は課税仕入れではないため、何れにしても影響はないと言えるかもしれませんが、建物や車両などの固定資産の取得費だったらどうでしょうか。多分、建物勘定や車両運搬具勘定に初期設定された消費税区分は課税仕入れになっているでしょうから、スンナリと仕入税額控除をしてしまうと、大きな間違いとなります。
所得税と消費税で異なるこれらの取り扱いでは、親族の有する資産に係る【維持費】だけに限らず、固定資産の【取得費】も同様、親族が負担した取得費を、個人事業主が負担した取得費とはできないため、個人事業主の消費税の計算上は課税仕入れにすることができないのです。
何だか、所得税の節税を考えるあまり、減価償却費を計上するために建物や車両の取得仕訳を入力したところまではいいのですが、消費税区分を課税仕入れとしてしまっては・・・。改めて、便利機能が満載の会計ソフトは、入力内容が間違っていないかどうかの【適正な判断】まではしてくれません。あくまでも、ご自身が入力した内容に従って【面倒な計算】をしてくれるだけなのです。
確かに、最近の会計ソフトは【簡単】とか【簿記の知識はいらない】のアピールが強すぎるため、適正な判断までしてくれると勘違いしてしまうのかもしれませんが、自計化をされる際の前提と言えますのでご注意下さい。
ところで、以前のコラムでは、親族の車両の減価償却費【2017.09.08会計】として、償却方法までも一緒でいいとは限らないことについて記述しましたが、1つの支出に対する取り扱いについて、他税目間でのズレや、同じ税目でも勘定科目によるズレは他にも考えられます。
同じ生計一親族絡みだから【取り扱いが異なることはないだろう】との思い込みをしないように気をつけましょう。
<参考>消費税法第30条第1項、所得税法第56条、所得税基本通達56-1