コラム[cf.]

2019-10-01 22:40:00

机上調査からはじめる土地の評価【財産評価】

財産評価基本通達24では、私道の用に供されている宅地の価額は自用地としての価額の30%で評価し、その私道が不特定多数の者の通行の用に供されているときは評価しない(=評価額はゼロ)とされています。
この解釈にあたり、例えとして【通り抜け私道】とか【行き止まり私道】という用語で説明されますが、私道の評価にあたっては、
[不特定多数の者の通行の用=通り抜け私道や、特定の者の通行の用=行き止まり私道]という単純な当てはめをするのではなく、
[通り抜けできるか行き止まりかにかかわらず、不特定多数の者の通行の用に供されているかどうか]が評価の分かれ目となります。
行き止まり私道であったとしても不特定多数の者の通行の用に供されているものには、地域等の集会所や地域センター、公園などの公共施設や商店街等への出入りに利用されている場合や、私道の一部に、公共バスの転回場、停留所が設けられている場合などが該当します。
また、特定の者の通行の用に供される通り抜け私道としては、公道から分岐しているものの、その合流地点が同一の公道であり、通り抜けのように見えるものの、結果、その私道が公道と【他の】公道とを接続している状況にない(=特定の者以外にとっては近道にもならない)場合が該当します。

さて、これだけインターネット環境が整っていると、事務所にいながら登記情報提供サービスを利用して謄本や公図、地積測量図、建物図面も入手できますし、地図や航空写真も検索できます。
まず、土地評価の準備として、名寄帳や課税台帳を用意して評価対象地の一覧がわかるようにしておきます。そして、所在地を確認するため住宅地図を入手してみると上空からみた評価対象地をイメージできるのですが、更に、その住宅地図と別に入手した公図を突き合わせてみると分かることがあります。例えば【位置指定道路】です。
住宅地図や実際には評価対象地の南側に道路があるにもかかわらず、公図では、該当する【道】がない・・・。ここで『評価対象地はこんな形をしているんだ』と気づくのですが、公道であれば通常、地番が付されていないところ、私道のため当然のように地番が付されていて、視点を変えて近隣の細切れの土地を繋げてみると、それが道を構成していることが分かります。私道です。
このとき、評価対象地が分筆されていればより簡単なのですが、評価にあたっては、1筆の土地を宅地と私道部分に分ける作業が必要になります。ようやく、前述の不特定多数の者の通行の用かどうかの判定を盛り込むことができるのですが、目で確認し思い浮かべた土地の形状と登記されている形状が一致していないことは少なくありません。

土地の評価も随分と楽になりましたが、評価の原則である【課税時期の現況】を知るには、現地調査と役所調査は欠かせません。この点、ストリートビューとか、地域によっては行政地図情報サービスなどで色々と公的な値を知ることも可能なため、中々、机から動かない、土地評価ソフトも多機能になったし、現地に行かなくてもそれなりの評価ができてしまうのが現状です。
殆どの依頼者が【税金を安くしたい】と思っていて、土地の評価であれば【減額要因を見落とさない】ことができるかどうかで、評価額はガラッと変わることもあるため現地調査と役所調査は省略できない筈ですが、机上調査だけで満足している方もいるようです。中には、時間をかけて評価額が多少下がったとしても、大幅に納税額が変わらないのであれば細かな調査を希望しない、少しでも早く片づけたいという気持ちの方もいるようです。ただ【過大評価であってはならない】【1円であっても必要のない税金は納めない】といった考え方の立場としては、そこの時間は覚悟して欲しいと感じます。
机上調査での気づきは大事で、現地調査や役所調査に繋げるためには机上調査で終わらせないこと、机上調査は万能ではないことを理解することが重要です。
今回は、私道の評価にあたり基本的な内容を確認しましたが、私道の評価は一筋縄ではいきません。次回は、さらに細かい論点をお伝えしたいと思います。

私が、初めて土地の評価に携わったのは今から25年くらい前になります。この業界に身を投じた最初の事務所所長のお手伝いということで、ただ、巻き尺の端を言われた部分にあてて、計測中は動かないように集中するだけの簡単な作業です。この時、境界確認とか間口距離とか、所謂、現地調査デビューをした訳ですが、当時は相続税のしくみも土地の評価も全く分からない素人でした。
その時から10年経って、別の事務所に転職して土地の評価をすることになったのですが、その事務所の所長は『現地調査はいらない。机上の計算でいい。お客さんは早く税額を知りたがっているんだ』・・・と。インターネット環境も整備してくれない事務所なのに、よくもそんな言い方ができたものです。本心だったのか、その後方針を改めたのかを知ることはできませんが、反面教師、今となればよい経験をしたことになります

<参考>財産評価基本通達1、24、建築基準法第42条第1項第5号

2017-08-18 14:28:00

誰が建てたアパートか【財産評価】

相続税の節税対策としての生前贈与でよくある事例です。

【問い】A土地は父の所有ですが、その上のB貸家は長男の所有であり、第三者丙に貸し付けられています。長男は父からA土地を無償(=使用貸借)で借り受けていた状況で父の相続が開始したとき、A土地についてはどのように評価するのでしょうか。

【答え】使用貸借のため、自用地として評価します。

・・・相続税の課税価格に算入されるA土地の評価額についての問題になりますが、土地の使用貸借に係る使用権はゼロとして扱われるため、一見、適正な評価に見えます。では、貸家の敷地の用に供されていることから、貸家建付地としての評価はできないのでしょうか。

さて、相続開始時点で【問い】のような利用状況になるパターンとして2つ考えられます。
①父からA土地を使用貸借のうえ【長男がB貸家を建てて】丙に賃貸した場合と、
②【父がB貸家を建てて】丙に賃貸し、その後、長男にB貸家を贈与した場合です。
ところで【相続開始時点】の利用状況が同じであれば、評価方法も一緒で①と②に差異はない筈ですが、このような事例では評価額が異なります。①は自用地として、②は貸家建付地として、それぞれ評価することになります。
これは、①の経緯があったのであれば【相続開始時点】の利用状況から見ても【答え】のような一般的な回答となりますが、②のように自用地評価とはならない理由としては【建物の所有者に異動があった場合でも、異動前に父と丙との間で締結された、建物賃貸借契約による建物賃借人である丙の敷地利用権の機能には変動がない】と考えられることから、貸家建付地での評価となるのです。
ただし注意しなければならない点が1つあります。貸家建付地として評価できるのは、あくまで【建物贈与時点】と【建物贈与者の相続開始時点】の建物賃借人(丙)が同一である場合に限られます。そのため、長男が相続開始時点で新たな賃貸借契約を締結している(=従来の丙から新たな建物賃借人甲への変更があった)場合は、自用地で評価しなければなりません。この点、戸建の貸家のほか、サブリースによりアパートを不動産管理会社に一括して貸し付けている場合は、各部屋の居住者ではなく不動産管理会社が建物賃借人となるため、貸家建付地としての評価はスムーズでしょう。

何れにしても、財産評価の場面においては、
相続開始[時点の現況だけ]で判断するのではなく、
誰が建てた建物かなどの[過去の異動]も確認することが重要となります。

ところで、
【問い2】上記【問い】の利用状況(過去の異動は②)で、父が生前にA土地を妻に贈与することとした場合、妻が取得したA土地はどのように評価(=贈与税の課税価格)するのでしょうか。贈与後は、B貸家の所有者である長男は、A土地をその所有者である妻(=長男の母)から使用貸借により借り受けます。

【答え2】貸家建付地として評価します。

・・・上記の【問い】を【相続】ではなく【贈与】に置き換えたパターンです。考え方は前述と同様ですが、建物賃借人の変更を想定する必要がない分、贈与パターンの方が理解し易いかもしれません。念のため、妻がA土地を贈与により取得した【後の】利用状況が使用貸借だからといって、自用地評価とはしないように気をつけましょう。

<参考>相続税法第22条、財産評価基本通達26、相続税個別通達(昭和48年11月1日付直資2-189使用貸借通達)

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