コラム[cf.]

2019-09-25 22:27:00

5棟10室の判定時期と資産損失【所得税】

H29.09.15のコラム(何を取り壊したか【所得税】)では、建物を何のために取り壊したかの違いによって取り壊し費用の処理が異なる点を、H29.11.24のコラム(取り壊し費用と資産損失と規模【所得税】)では、取り壊した建物が事業的規模でないときの資産損失は必要経費の算入が制限される点を、それぞれ確認しました。
今回は、資産損失の適用にあたり、5棟10室(=事業的規模)はどの時点で判定するのかを確認しようと思います。以下、事業的規模に満たない不動産貸付けの状態を業務的規模と表現し、その建物を業務の用に供される建物と表現します。

例えば、木造アパート(1棟当たり4室)2棟の貸し付けを想定した場合、合計8室となり5棟10室基準に当てはめる限り、不動産所得の計算上、木造アパートの貸付けは【業務的規模】となります。
以前のコラムでは、1年を通じて納税者の不動産貸付けが業務的規模であった場合に生じた資産損失は必要経費の算入が制限されるとお伝えしましたが、では、年内に木造アパートを取り壊したけれども、年末までに12室の軽鉄アパートを建築し貸付けを開始した場合の資産損失はどうなるでしょうか。
[12月31日の現況]で、納税者は事業的規模の不動産貸付けをしているから、必要経費算入の制限を受けないのか、それとも、
[取り壊した時点]で、納税者は業務の用に供される建物を取り壊しているから、必要経費算入の制限を受けるのか。

さて、確定申告書を提出する際に作成する【青色申告決算書(不動産所得用)】は、1納税者につき1枚で、その年の1月1日から12月31日までの合計額を集計するものであり、事業的規模分の合計とか業務的規模分の合計というような集計はしません。
青色申告決算書(不動産所得用)を作成するときに、1年を通じて自分が不動産貸付けを業務的規模でしていたかとか、事業的規模でしていたかとか、何れにしても【業務的規模と事業的規模が混在していたことを振り返る方】はどれだけいるでしょうか。シンプルに【12月31日時点で5棟10室かどうかを考える方】が殆どと思われますが、実際は、取り壊した時点で業務の用に供されていた建物なのか、または事業の用に供されていた建物なのかで判定しなければなりません。
この判定は納税者ご自身が気付くほかありませんが、会計ソフトを使っているからといって教えてもらえるわけではないですし、確定申告の手引きからどれだけ正解を導き出せるのか、また、ある意味流れ作業的な確定申告会場でも100%気付いてもらえるとは限りません。必要経費の算入が制限されないまま算出された不動産所得の赤字を給与所得と通算して、結果、間違った形で所得税の還付を受ける可能性もあります。
この点、不動産所得が赤字でない限り気にすることはないかもしれませんが、よくある話で、相続税対策という切り口でハウスメーカーからアパートの建て替えを色々と提案されてしまうと、取り壊した旧アパートの処理よりは、新たに建築する新アパートの処理と相続対策のことが気になってしまって論点を忘れがちです。

応用として、前述の逆のパターンで、事業的規模で不動産貸付けをしていたところ、年中に一部の建物を取り壊したため12月31日現在は業務的規模の不動産貸付けとなってしまった場合はどうでしょうか。これも、取り壊した時点で事業の用に供されていた建物であれば、その後に業務的規模の不動産貸付けになったとしても必要経費の算入が制限されることはありません。12月31日の現況に関係なく、資産損失の全額が必要経費算入可能となります。
5棟10室の判定は納税者全体で見ますから、1棟当たり4室タイプの木造アパートを3棟貸し付けていた場合は、12室の事業的規模であったと判定し、各棟それぞれ【事業の用に供される建物】となりますが、2棟貸し付けていた場合は、各棟それぞれが【業務の用に供される建物】となり、ここに資産損失の取り扱いの差がでてきます。12月31日の現況でもなく、取り壊した建物1つ1つのサイズでもなく、建物を取り壊した時点の貸付け規模がポイントとなります。

以前受けた所得税と消費税の税務相談のお話ですが、本人は、兎に角、負担になっている税金をどうにかしたいとのこと。何か節税対策はないものか、法人成りをした方が良いものかという相談でしたが、複数年分の申告書類を見る限り、必要経費の計上が乱暴すぎるし、消費税の計算そのものが間違っているようでした。結果的に無料相談になりましたが、私が伝えたことを受けてどのようなアクションを起こしたのかは分かりません。節税を気にして相談したのに、更に税金を納める必要があるという指摘をされたのでは、納得するのは難しいかもしれません。
資産損失は一生に何度も経験するようなことではないかもしれませんが、指摘のないことが適正なのではなく、たまたま運よく指摘されないでいる方は、ご自身が気付いていないだけで結構いるようです。
次回は、5棟10室の判定時期についてのもう1つの論点である【青色申告の65万円控除】についてお伝えします

<参考>所得税法第51条1項、4項、所得税基本通達26-9

2019-08-21 21:56:00

5%の概算取得費は勿体ない【所得税】

個人が土地や建物を売却した場合、不動産所得や事業所得等とは区分され、譲渡所得として確定申告が必要になります。
譲渡所得の計算には【収入金額】【取得費】【譲渡費用】の各判断は欠かせないところ、それぞれの詳細は割愛することにしまして、今回は、5%の概算取得費の考え方について確認しようと思います。

【租税特別措置法31条の4(長期譲渡所得の概算取得費控除)のうち1項のみ抜粋】
第31条の4 個人が昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第38条及び第61条の規定にかかわらず、当該収入金額の100分の5に相当する金額とする。ただし、当該金額がそれぞれ次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする。
一 その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額
二 その建物等の取得に要した金額と設備費及び改良費の額との合計額につき所得税法第38条第2項の規定を適用した場合に同項の規定により取得費とされる金額

【租税特別措置法通達31の4-1(昭和28年以後に取得した資産についての適用)】
31の4-1 措置法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の譲渡所得の金額の計算につき適用されるのであるが、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えないものとする。

まず、租税特別措置法31条の4で、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等としつつ、租税特別措置法通達31の4-1で、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等についても同様で差し支えないとの構成から、取得時期に関係なく5%の概算取得費を適用できることが分かります。そして、実際のところ、5%の概算取得費は【原則的な】取得費の考え方であり、5%に相当する金額を超えることが証明された場合の実際の取得費が【特例的な】考え方という位置づけとなります。
国税庁のタックスアンサー【取得費が分からないとき】で、概算取得費の適用にあたり『実際の取得費が売った金額の5%相当額を下回る場合も同様です』との記述があることから、税金を計算する際の覚え方としては【収入金額の5%と実際の取得費を比べて何れか大きい金額】を取得費とすることで問題はありません。更に、所得税基本通達38-16では、土地建物等以外の資産についても土地建物等と同様の適用を認めていることから、結果的に、土地建物等に限らずそれ以外の資産についても【比べて何れか大きい金額】を取得費とする当てはめができます。

では、当初5%の概算取得費(例えば、売却代金1,200万円×5%=60万円)で申告していた土地の譲渡所得について、その後、購入当時の領収書を発見して実際の取得費(例えば、100万円)が分かった場合はどうしましょう。
前述の取り扱いを当てはめる限り、実際の取得費が100万円であったことを証明できれば、取得費が増加することで譲渡所得は40万円減少するため、税金が納めすぎであったとして、税金の還付手続きが可能となります。所謂、更正の請求です。
この点、5%の適用について概算取得費の【特例】という表現が見受けられるため、当初申告で特例を選択した後に原則に戻ることはできないのではないかと思ってしまいますが、そもそも、5%の概算取得費は特例ではないですし、更正の請求を実現するには【如何に証明するか】が求められます。

私が譲渡所得の相談を受ける際は、必ず『昔の書類を見つけて下さい』とお伝えしています。すると、相談者はその書類を見たことがないのではないかと予想されるところ、大体が『ないなあ』とか『何十年も昔ですからねえ』とか『親が買ったものですし』などの即答がかえってきて・・・。
購入当時の領収書や契約書などピンポイントな書類があればベストですが、如何に証明するかを考えた場合には、一つの書類でなくてもいいですし、複数の書類や経緯の聴き取りを踏まえて実際の取得費を証明することができることもあります。
金庫の中だけとは限りません。書類のタイトルに拘らず、埃のかぶった段ボール、ちょっとかび臭い鞄、日記帳や通帳へのメモ書き、商売をやっていたならそれらの書類に紛れていることもあります。
参考になるかならないか、関係があるかないかの判断を独自にされてしまう方や、かしこまった形式の書類に限ると思い込んでいる方がいますが、この点は『探してみます』のような真剣な反応があることを常に期待している私としては、勿体ないなあと感じています。

さて、昔の書類を探してみて下さいという助言は、世間では【専門家の提案】とは認識されないかもしれません。また、市街地価格指数の適用とか、自分の場合は権利証のコピーを添付したけど税務署から指摘はなかったなど、ネットでは【認められた事例】が見受けられますが、この点も、先入観から無理にご自身に当てはめようとせず、あくまでもケースバイケースと捉え、お手許にある書類と向き合うことが第一と考えます。
[迅速な対応]のもと、安易に5%の概算取得費の適用を提案しないためにも、
実際の取得費が[5%を超えていないことの確認]を省略しないことを心掛けます。
当初、安易に5%の概算取得費を適用してしまった方は、今からでも遅くはありません

<参考>所得税法38条、租税特別措置法31条の4、租税特別措置法通達31の4-1、所得税基本通達38-16、国税通則法第23条

2017-12-15 21:16:00

1日12時間くらい仕事をしている【所得税】

【Q.個人事業主として、借家の一室で仕事をしていますが、毎日12時間くらいは仕事をしています。支払っている家賃の50%を経費にできますか】
という質問を受けたことがあります。確かに、1日の半分を仕事に費やしたので、払っている家賃も半分が経費という発想であり、とてもシンプルで分かり易いところです。
この点、所得税法ではプライベートな支出を家事上の経費(=家事費といい、衣服費、食費、住居費、娯楽費、教養費等の個人の消費生活上の費用が該当)として区分し、そもそも、必要経費の算入を認めていません。また、前述のように、プライベートな部分と業務用の部分の混在する支出を家事上の経費に関連する経費(=家事関連費)として区分したうえで、必要経費への算入の取り扱いを次のように規定しています。

【所得税法施行令第96条:家事関連費】
所得税法第45条第1項第1号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。
(1)家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
(2)前号に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費

言い回しとして、上記(1)と(2)の経費を、
必要経費に[算入される経費]として限定するのではなく、
必要経費と[されない家事関連費には含まれない経費]としてピックアップしている点に、
特徴があります。結果としては、必要経費とされない家事関連費には含まれない=必要経費に算入される部分と解釈できるのですが、東京地裁平成25年10月17日判決〔※1〕を参考にしてみようと思います。

この判決は、3LDKの2階建て住宅の総面積のうち、保険代理店等の事業用として使用している部分の面積(=事業専用割合)は60%であるとして、月額賃料の60%を必要経費に算入して申告した事案です。
納税者側は、リビング、ダイニングキッチン(シンクを除く部分)、洗面、1階のトイレ、2階の洋室1室を、業務専用スペースとして常時使用していた旨主張しました。また【毎日、会議や食事会、パーティーミーティングのために使用しているから、時間的にも家族団らんの場所として使用することは不可能】とか【リビングルームは、ビジネス専用の集会場であり、あくまでもリビングルームに見立てた部屋である】とも主張しました。
これに対し【~建物の構造上、住宅の一部について、居住用と事業用とを明確に区分することができる状態にないことが明らか~業務専用スペースとして常時使用し、それ以外の用向きには使用していなかったとは考えられず、むしろ、家族と共に家族生活を営みつつ、業務を行っていたものと認めるのが相当】であるとして、必要経費の算入は認められませんでした。
そして、家事関連費を業務の遂行上の必要性があるというためには【その支出が業務の遂行との間に何らかの関連性があるというのみでは足りず、また、単に事業主が主観的に必要であると判断することだけでなく、その必要性が客観的にみて相当であることを要する】としています。確かに、施行令第96条の言い回しが、OKな経費ではなく、ダメな経費には含まれない経費の列挙というあえて分かり辛い表現からも、家事関連費の必要経費算入の取り扱いは【必要性】と【明らかな部分】を求めていると言えます。

さて、前述の質問を受けたのはこの判決と出会う前で、事業専用割合は【時間】ではなく【面積按分】が妥当という回答をしました。これは、現行の判断でも一番身近な割合ですが、それにしても、洗面所もトイレもキッチンも・・・って、どれだけ【攻めた】申告なんだと。
確かに、家事関連費の判断は、簡単に考えてはいけなくて、ハッキリ言って面倒くさくて【何で】の多い取り扱いです。そして、現行の取り扱いが【適正な申告にとって】万能とは言えない点も否定できません。この事案でも、面積按分することの【方向性】は間違っていなかったでしょうに、それ以上の判断で【主張すべき部分】と【引くべき部分】の強弱を間違えたように思われます。これが、もっと説得力のある事業専用割合であれば、攻めた申告ではなく、適正な申告に近づいたのかもしれません。まずは、関与先への聞き取りから始めよう。

<参考>所得税法第37条、45条、所得税法施行令第96条、税務訴訟資料第263号-187(順号12311)〔※1〕

2017-12-08 21:07:00

大工、左官、とび職等の方【所得税】

平成21年に【大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて】という法令解釈通達が制定されたことに伴い、従来の通達は廃止されました。
これは、以前のコラム(個人で確定申告をする【2017.09.22会計】)でも取り上げた、所謂【事業所得か給与所得か問題】に関係しますが、従来の取り扱いが相当根付いているのか、まだ、古い通達の取り扱いのまま申告をされているとの話を聞きます。

原則的な所得区分の判定には【雇用】と【請負】の解釈が必要です。この点、民法において次のように規定していますが、結果、雇用であれば給与所得と、請負であれば事業所得と、それぞれ判定できることになります。
[第623条]雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる
[第632条]請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる

そして、この個別通達は、大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得区分は、その対価が雇用契約または請負契約若しくはこれらに準ずる契約のうち、何れかに基づくものであるかによって判定するところ、契約によって所得区分が判定できないときの判定基準を示したものという位置づけとなります。
以下、報酬を支払う側を支払者と、報酬を受け取る者を本人と表現し、次の【1】~【5】の事項は、本人にとってその報酬が事業所得に【該当すると判定するための要素】となる点を踏まえて、個別通達の内容を確認して下さい。
【1】他の者が代替して業務の遂行または役務を提供することが認められること
・・・不測の事態により、本人が作業に従事できない場合の対処として、本人が自己の責任において他の者を手配し、役務を提供した者が誰であるかにかかわらず、報酬は当該他の者にではなく本人に支払われる(他の者には本人から支払われる)ケースです。一方、支払者の責任において他の者を手配し、報酬も支払者から当該他の者に直接支払われるケースでは、民法第625条第2項の規定からも、給与所得に該当するといえます。
【2】時間的な拘束を受けないこと
・・・支払者から仕事先や作業時間を指定されたり、報酬が時間を単位として計算されていることなどは、空間的または時間的な拘束を受けていることであり、給与所得に該当するといえます。なお、現場の状況を考慮した作業時間が指定されていたとしても、それは作業実施上の条件であるとされ、時間的な拘束に当たりません。
【3】指揮監督を受けないこと
・・・支払者側から作業の具体的内容や方法等の指示を受けて作業に従事している場合は、給与所得に該当するといえますが、例えば、他職種との工程の調整や事故の発生防止のための作業方法等の指示は、業務の性質上、当然に存在する指揮監督であり、支払者側からの指揮監督には当たりません。業務の完成に向けての連絡事項や周知徹底事項などとは異なります。
【4】すでに遂行した業務または提供した役務に係る報酬の支払いを請求できないこと
・・・民法第632条における【仕事の完成】と【結果に対する報酬】の当てはめです。例え不可抗力であったとしても、達成すべき仕事量が完遂されない状況にもかかわらず対価を減額されることがない、または請求できる場合は、給与所得に該当するといえます。
【5】材料または用具等を報酬の支払者から供与されていないこと
・・・支払者が所有する用具を使用せず、本人が所有する手持ち工具程度の用具に該当しない用具(=例えば、据置式の用具)を作業で使用しているのであれば、材料または用具等を供与されていることとは認められません。ただし、本件報酬に係る作業において、実際にその用具を使用していない場合は除かれるため、給与所得に該当するといえます。

この個別通達の解釈にあたっては、最高裁平成20年10月10日判決〔※1〕が参考となります。この事案は、法人が外注費として支払った報酬について、受け取った本人の視点となる所得区分の判定(=所得税)をもとに、支払者である法人側の視点から外注費の課税仕入れ該当性(=消費税)が争点となったものです。
結果、支払った報酬は給料に該当し、外注費として仕入税額控除を受けることは認められませんでしたが、注意しなければならないのは、前述の【1】~【5】の要素のうち、特定の1つの要素から判断を導くのではなく、あくまでも、各要素をもとに総合的に判断する必要があるという点です。

まずは、現時点でこの個別通達の存在と内容を知らない方は、ご自身の契約状況に当てはめたうえで、改めて判断して頂きたいところです。
一般的には、一筋縄ではいかない【外注費か給料か問題】の判断にあたり、支払者である法人側の要望にこたえる形での相談が多い顧問税理士という立場から、もしかしたら【外注費と判断できる内容の契約書の完成】を真っ先に考えて、外注費にすることが節税に繋がり色々と解決できるとの提案に偏ってしまいそうです・・・。この点、受け取る本人側に【その気】がなく、事業所得として確定申告をしなければならないことを【煩わしい】と思う者もいるでしょう。そもそも、外注費に【することがベスト】であるとの思い込みは禁物です。

<参考>民法第623条、632条、625条第2項、所得税個別通達(平成21年12月17日付課個5-5)、国税庁HPその他法令解釈に関する情報(個人課税課情報第9号他)、税務訴訟資料第258号-190(順号11048)〔※1〕

2017-12-02 18:18:00

生計を一にする【所得税】

医療費控除や扶養控除、事業専従者の判定など所得税法でお馴染みの【生計を一にする】の意義。これは、相続税法や他の税目でも論点とされる重要な解釈ですが、その意義については、所得税基本通達2-47で、実務上の取り扱いを明らかにしています。

【生計を一にするの意義:所得税基本通達2-47】
法に規定する【生計を一にする】とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。
(1)勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
①当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
②これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
(2)親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

・・・と定義し、一般的には、同一の生活共同体に属して日常生活の資を共通にしていることをいうものと解されています。ザックリと言えば【お金】の部分がポイントとなりますが、よく【財布が一緒】という表現もされるように、家族の食費や光熱費などの生活費のほか、学資金や療養費等(=生活費等と表現します)を、どのようにやりくりしているかが判断の分かれ目であり、必ずしも【一方が他方を扶養する関係】であることをいうものではなく、また、必ずしも【同居していることを要する】ものでもないということになります。
例えば、母と息子夫婦と孫1人の計4人同居家族の場合。このうち、家族全体の課税所得は、息子夫婦共働きによる給与所得で、孫は学生、母は亡くなった夫の遺産が多額にあるため家族の生活費等の一切を賄い、かつ、居宅は母名義でローンも家賃も発生しないと仮定した場合はどうでしょうか。
大人3人それぞれが、独立して生活費等を賄えそうな所得や財産があり、別生計のように見えなくもないですが、この点、前述の【必ずしも一方が他方を扶養する関係であることをいうものではない】という解釈に当てはめることにより、余程、明らかに互いに独立した生活を営んでいる(=別生計)と認められる特段の事情があるのでなければ、この家族4人は、お互いが生計を一にしていると判断することができます。
なお、母の貯蓄から賄うことを想定しましたが、これが、遺族年金や労災の休業補償給付などの定期的な非課税所得であったとしても、判断は一緒です。その収入の多寡だけでは生計を一にする判断に影響を与えません。
念のため、扶養控除の対象となる親族かどうかの判定は、38万円以下の所得要件の前に、生計一であることが前提となります。

さて、この生計を一にするという解釈を巡っては、各種の控除や特例を適用したいために、
[生計を一にしている]ほうが、一般的には節税の恩恵が大きいと思われるところ、
[生計を一にしていない]ほうが、都合がよいという場面もあります。
前述の医療費控除や扶養控除、事業専従者の判定などは、生計一だからこそ適用できる規定とはなりますが、仮に、親族に対して支払った賃料や退職金等の対価を必要経費に算入しようと考えたり、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の適用における譲渡先である特殊関係者を考えたりするときなどは、別生計でなければなりません。
この点、最高裁平成14年6月28日判決〔※1〕は、納税者側が、居住用財産を取得または建築したのを機に【別生計となった】との主張に対して、課税庁側の主張である【生計を一にする関係に変化はなかった】と認定された事案です。
この事案では、別生計と認められるには、収入の多寡そのものではなく、その収入を【自ら独立して管理していたか否か】が重要であり、加えて、親族がそれぞれの生活費等の全部または主要な部分を【共同して支弁し合う(=共通の財布から支出する)関係にない】ことも求めています。
当然、就寝場所や食事のとり方など、他の要素を含めた総合的な判断は欠かせませんが、同居で生計一の場合の当てはめはそれほど難しくはないものの、別居で生計一であることの立証のほか、同居で生計別であることの立証は、主観的な判断にならないようにしなければなりません。何れにしても、日頃のお金に対するメリハリは、結果として表れると言えます。

ところで、親の持ち家に、長男だからと世間一般で言うところの当然の流れで同居しているという家族もいるでしょう。親子3世代で一緒に住んではいるけれども、食事の好みは違うし、家族全員が集っての団らんも珍しく、必要がなければ特に会話をすることもなく、お互いがあまり干渉し合わないため、お互いの行動予定をハッキリわかっていないような、大凡、関係が濃いとは見られないような家族もイメージできます。
こんなとき、お金の部分を除けば【どこが生計一なのか、別生計だよ】と言ってしまいそうですが、前述の解釈に当てはめた場合は生計を一にすると判断されることはあります。あくまでも【税金は置いといて】という視点ではありますが、不思議な感じはしてしまいます・・・。

<参考>所得税基本通達2-47、税務訴訟資料第252号(順号9153)〔※1〕

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