コラム[cf.]
親族の車両の減価償却費【会計】
年末にかけて、恒例の確定申告に関する各種説明会が開催されます。
記帳を中心とした【帳簿の作成】のほか、帳簿の作成は済んでいることを前提に、決算整理仕訳を中心とした【決算書の書き方】を説明しますが、帳簿や書類の完成度はともかく、気持ちはどうしても節税の方向へ向かってしまいます・・・。例えば、個人事業にあたり【妻の車両を使っているけれども、経費になりますか】という質問は、必ずあります。
まず、経費に【なるかどうか】の判断については、所得税法第56条と所得税基本通達56-1をもとに、経費にすることができます。ザックリと言えば【生計一親族の資産を無償で事業の用に供している場合は、その生計一親族の負担する費用を事業主の経費にできる】というものです。なお、親族に対価を支払う有償パターンだとしても、同様の考え方で経費にすることができます。車両であれば、その年分の自動車税、保険料、車検代、タイヤ代などの維持費のほか、新たに車両を購入した場合の購入費用が考えられるでしょう。
また、経費になること自体は分かったけれども、実際のところ【どれくらい】経費にできるかという【量的な】部分は一番気になるところです。
これが車両に係る各種費用となれば、奥様の車両のみの稼働か、または事業主名義の車両のほか2台目としての稼働かに関係なく、事業に必要な部分である【事業専用割合】を事業主が決定しなければなりません。この点、業種によって何割とか、金額に応じて何割というような係数は法定されていませんが、かといって、事業主の主観的な判断のみで自由な割合を主張できるものでもなく、最終的には業務遂行上の必要性を検討し、必要な部分を明らかに区分する必要があります。何れにしても、これはこれで、結構手間の掛かる作業となります。
さて、確定申告会場でのやりとりです。税金の計算まで全て完了済みで、提出するだけの状態の方ですが、何だか、色々と調べられたようで、事業専用割合の判断についても大凡ご自身で根拠を持って判断されているようですし、その他の収入と費用の項目についても概ね理解をされているようですし、決算書も申告書もきれいに作成してあります。
【限られた時間での聞き取りの範囲内】では大丈夫だろうと期待しつつ、減価償却費を確認したところ、本人は【定率法】を選択しているようです。・・・が、オチというか、何とも言えない間違いの発見に至り・・・【奥様の車両についても定率法】を適用していたようです。
ところで、前述のとおり、生計一親族名義の資産に関する経費は、
まさに[事業主名義の資産に関する経費と同様に]処理できるわけですが、
経費にできるからといって[償却方法まで]事業主の選択方法と同様に計算することはできません。
事例では、事業主の償却方法が【定率法】であったとしても、奥様の車両の減価償却費については【法定の償却方法である定額法】で計算(=結果、減価償却の計算明細書では、奥様の車両だけが定額法という表記)をしなければなりませんでした。
これは、事業専用割合が【どれくらいか】という部分ではなく、また、帳簿や決算書、申告書の【書き方そのもの】でもありません。あくまでも、資産の名義は誰かによる【計算方法の判断】の問題であって、同じ様にみえても、それぞれ別な判断が求められます。結果としては、どれくらい経費にできるかという【量的な】部分に影響してしまいますが・・・。
節税と言えば【量的な結果】を意識してしまいますが、前提となる計算方法が間違っていたら節税の効果もハッキリしません。この点は、どの税目においてもよくある光景ですが、当然、そこまでのチェック機能は会計ソフトにはないでしょうし、説明会でもしないでしょうし、国税庁の確定申告書等作成コーナーでも教えてくれません。多くはないかもしれませんが、誰でも【気にすることなく素通りしてしまいそうな】事例といえます・・・。
それと念のため【奥様が車両の購入費用を負担したにもかかわらず、名義だけを事業主とし、事業主名義の車両として定率法を適用する】というようなミラクルは【そう簡単には】起きません。
<参考>所得税法第49条、所得税法第56条、所得税基本通達56-1、所得税法施行令第123条第2項、平成27年9月2日裁決(東裁(所・諸)平27-25)