コラム[cf.]
役員の背広代等は経費になる【法人税】
【社長のスーツは経費になりますか】という質問が、まだまだあるようです。この質問に対して、経費には【なりませんとだけきっぱりと言う】のがよいのか、経費には【なりますよとだけ言って期待を持たせる】のがよいのか、伝え方は様々です。
さて【役員の背広代等(=スーツ、ワイシャツ、ネクタイ、靴など)は経費になるか】という質問に対しての回答ですが、
[経費には]なります。経費にはなるのですが、同時に、
[役員個人に所得税が課税されること]と、法人税の計算における[損金には算入されないこと]について理解しておく必要があります。
まず1つ目は、個人の課税関係です。背広代等の給付を受けた個人について経済的利益が発生するかどうかの判断が必要になりますが、経済的利益がある場合は、個人に給与を支給したのと同様の課税をしなければなりません。
この点、所得税法では非課税所得を列挙していますが、その中に【制服その他の身回品の支給または貸与】があります。一見、背広も制服と捉えがちですが、ここで言う制服は、①職務遂行上の必要性、②使用者自身の業務上の必要性、③専ら勤務場所のみにおいて着用するものとの要件から、例えば警察職員や消防職員、鉄道職員などの制服のほか、事務服や作業服などが該当します。なお、背広代等は、私服として職場以外でも着用できると考えられることから、非課税とされる制服には該当しません。結果、現物支給に対して個人の所得税が課税されてしまいます。
2つ目は、法人の損金算入についてですが、役員給与の損金不算入規定のうち、定期同額給与の判断です。前述のとおり、給付を受けた個人側の非課税判断で、役員個人に対する経済的利益とされた場合は、役員に給与を支給したのと同様の効果となります。この点、背広代等の支給は定期同額給与とされる経済的利益にも該当しないため、損金に算入される給与とはならず損金不算入となってしまいます。そもそも会社が負担すること自体は自由ですが、結果として法人税の節税効果は期待できません。
さて、何だかこうなると【経費になる】という表現は【支出した場合の勘定科目は福利厚生費でいい】という程度の意味でしかなくなります。また【経費になれば節税できる】と期待して質問したつもりなのに、単に【会社で負担してもいいか】という程度の質問に置き換わってしまい、本来求めている【節税効果】の話題でもなくなってしまいます。
そうすると、支給に伴う法人と個人の課税関係を理解したうえで会社が負担することに決めたのなら別ですが、役員の背広代等は経費になるかという質問があったときは、やはり、
【役員に対する背広代等の支給については、法人の損金には算入されず個人に税金がかかるため、結果として節税効果はないと考えられることから、会社がその支出を負担することはないでしょう】と回答するのがよいのではないかと考えます。経費にして節税したいという希望は普通に持つでしょうし、知りたい側はシンプルにイエスかノーかで言ってもらった方が分かり易いのかもしれませんが・・・。
ところで、例えば建設業の経理を考えた場合、但書に【作業着代として】という領収書があったら如何でしょうか。あわせて、帳簿にも同様に記載されていて、更に自計化により同様の摘要が入力されていたとしたら・・・。これを、福利厚生費勘定で処理していたとしても、業種的に何ら不自然な点はないという思い込みも手伝って、本当は前述のような役員の背広代等の支出だったとしてもそのことに気づくのは簡単ではないでしょう。結果、法人の損金不算入も個人に対する課税も漏れたままとなります。こんなことを考えると、基本中の基本ですが、領収書の但書も軽く考えてはいけないように思います・・・。
<参考>所得税法第9条第1項第6号、所得税法施行令第21条第2号、第3号、所得税基本通達9-8、法人税法第34条第4項、法人税法施行令第69条第1項第2号、法人税基本通達9-2-9、9-2-10