コラム[cf.]

2017-12-08 21:07:00

大工、左官、とび職等の方【所得税】

平成21年に【大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて】という法令解釈通達が制定されたことに伴い、従来の通達は廃止されました。
これは、以前のコラム(個人で確定申告をする【2017.09.22会計】)でも取り上げた、所謂【事業所得か給与所得か問題】に関係しますが、従来の取り扱いが相当根付いているのか、まだ、古い通達の取り扱いのまま申告をされているとの話を聞きます。

原則的な所得区分の判定には【雇用】と【請負】の解釈が必要です。この点、民法において次のように規定していますが、結果、雇用であれば給与所得と、請負であれば事業所得と、それぞれ判定できることになります。
[第623条]雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる
[第632条]請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる

そして、この個別通達は、大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得区分は、その対価が雇用契約または請負契約若しくはこれらに準ずる契約のうち、何れかに基づくものであるかによって判定するところ、契約によって所得区分が判定できないときの判定基準を示したものという位置づけとなります。
以下、報酬を支払う側を支払者と、報酬を受け取る者を本人と表現し、次の【1】~【5】の事項は、本人にとってその報酬が事業所得に【該当すると判定するための要素】となる点を踏まえて、個別通達の内容を確認して下さい。
【1】他の者が代替して業務の遂行または役務を提供することが認められること
・・・不測の事態により、本人が作業に従事できない場合の対処として、本人が自己の責任において他の者を手配し、役務を提供した者が誰であるかにかかわらず、報酬は当該他の者にではなく本人に支払われる(他の者には本人から支払われる)ケースです。一方、支払者の責任において他の者を手配し、報酬も支払者から当該他の者に直接支払われるケースでは、民法第625条第2項の規定からも、給与所得に該当するといえます。
【2】時間的な拘束を受けないこと
・・・支払者から仕事先や作業時間を指定されたり、報酬が時間を単位として計算されていることなどは、空間的または時間的な拘束を受けていることであり、給与所得に該当するといえます。なお、現場の状況を考慮した作業時間が指定されていたとしても、それは作業実施上の条件であるとされ、時間的な拘束に当たりません。
【3】指揮監督を受けないこと
・・・支払者側から作業の具体的内容や方法等の指示を受けて作業に従事している場合は、給与所得に該当するといえますが、例えば、他職種との工程の調整や事故の発生防止のための作業方法等の指示は、業務の性質上、当然に存在する指揮監督であり、支払者側からの指揮監督には当たりません。業務の完成に向けての連絡事項や周知徹底事項などとは異なります。
【4】すでに遂行した業務または提供した役務に係る報酬の支払いを請求できないこと
・・・民法第632条における【仕事の完成】と【結果に対する報酬】の当てはめです。例え不可抗力であったとしても、達成すべき仕事量が完遂されない状況にもかかわらず対価を減額されることがない、または請求できる場合は、給与所得に該当するといえます。
【5】材料または用具等を報酬の支払者から供与されていないこと
・・・支払者が所有する用具を使用せず、本人が所有する手持ち工具程度の用具に該当しない用具(=例えば、据置式の用具)を作業で使用しているのであれば、材料または用具等を供与されていることとは認められません。ただし、本件報酬に係る作業において、実際にその用具を使用していない場合は除かれるため、給与所得に該当するといえます。

この個別通達の解釈にあたっては、最高裁平成20年10月10日判決〔※1〕が参考となります。この事案は、法人が外注費として支払った報酬について、受け取った本人の視点となる所得区分の判定(=所得税)をもとに、支払者である法人側の視点から外注費の課税仕入れ該当性(=消費税)が争点となったものです。
結果、支払った報酬は給料に該当し、外注費として仕入税額控除を受けることは認められませんでしたが、注意しなければならないのは、前述の【1】~【5】の要素のうち、特定の1つの要素から判断を導くのではなく、あくまでも、各要素をもとに総合的に判断する必要があるという点です。

まずは、現時点でこの個別通達の存在と内容を知らない方は、ご自身の契約状況に当てはめたうえで、改めて判断して頂きたいところです。
一般的には、一筋縄ではいかない【外注費か給料か問題】の判断にあたり、支払者である法人側の要望にこたえる形での相談が多い顧問税理士という立場から、もしかしたら【外注費と判断できる内容の契約書の完成】を真っ先に考えて、外注費にすることが節税に繋がり色々と解決できるとの提案に偏ってしまいそうです・・・。この点、受け取る本人側に【その気】がなく、事業所得として確定申告をしなければならないことを【煩わしい】と思う者もいるでしょう。そもそも、外注費に【することがベスト】であるとの思い込みは禁物です。

<参考>民法第623条、632条、625条第2項、所得税個別通達(平成21年12月17日付課個5-5)、国税庁HPその他法令解釈に関する情報(個人課税課情報第9号他)、税務訴訟資料第258号-190(順号11048)〔※1〕