コラム[cf.]

2017-12-02 18:18:00

生計を一にする【所得税】

医療費控除や扶養控除、事業専従者の判定など所得税法でお馴染みの【生計を一にする】の意義。これは、相続税法や他の税目でも論点とされる重要な解釈ですが、その意義については、所得税基本通達2-47で、実務上の取り扱いを明らかにしています。

【生計を一にするの意義:所得税基本通達2-47】
法に規定する【生計を一にする】とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。
(1)勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
①当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
②これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
(2)親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

・・・と定義し、一般的には、同一の生活共同体に属して日常生活の資を共通にしていることをいうものと解されています。ザックリと言えば【お金】の部分がポイントとなりますが、よく【財布が一緒】という表現もされるように、家族の食費や光熱費などの生活費のほか、学資金や療養費等(=生活費等と表現します)を、どのようにやりくりしているかが判断の分かれ目であり、必ずしも【一方が他方を扶養する関係】であることをいうものではなく、また、必ずしも【同居していることを要する】ものでもないということになります。
例えば、母と息子夫婦と孫1人の計4人同居家族の場合。このうち、家族全体の課税所得は、息子夫婦共働きによる給与所得で、孫は学生、母は亡くなった夫の遺産が多額にあるため家族の生活費等の一切を賄い、かつ、居宅は母名義でローンも家賃も発生しないと仮定した場合はどうでしょうか。
大人3人それぞれが、独立して生活費等を賄えそうな所得や財産があり、別生計のように見えなくもないですが、この点、前述の【必ずしも一方が他方を扶養する関係であることをいうものではない】という解釈に当てはめることにより、余程、明らかに互いに独立した生活を営んでいる(=別生計)と認められる特段の事情があるのでなければ、この家族4人は、お互いが生計を一にしていると判断することができます。
なお、母の貯蓄から賄うことを想定しましたが、これが、遺族年金や労災の休業補償給付などの定期的な非課税所得であったとしても、判断は一緒です。その収入の多寡だけでは生計を一にする判断に影響を与えません。
念のため、扶養控除の対象となる親族かどうかの判定は、38万円以下の所得要件の前に、生計一であることが前提となります。

さて、この生計を一にするという解釈を巡っては、各種の控除や特例を適用したいために、
[生計を一にしている]ほうが、一般的には節税の恩恵が大きいと思われるところ、
[生計を一にしていない]ほうが、都合がよいという場面もあります。
前述の医療費控除や扶養控除、事業専従者の判定などは、生計一だからこそ適用できる規定とはなりますが、仮に、親族に対して支払った賃料や退職金等の対価を必要経費に算入しようと考えたり、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の適用における譲渡先である特殊関係者を考えたりするときなどは、別生計でなければなりません。
この点、最高裁平成14年6月28日判決〔※1〕は、納税者側が、居住用財産を取得または建築したのを機に【別生計となった】との主張に対して、課税庁側の主張である【生計を一にする関係に変化はなかった】と認定された事案です。
この事案では、別生計と認められるには、収入の多寡そのものではなく、その収入を【自ら独立して管理していたか否か】が重要であり、加えて、親族がそれぞれの生活費等の全部または主要な部分を【共同して支弁し合う(=共通の財布から支出する)関係にない】ことも求めています。
当然、就寝場所や食事のとり方など、他の要素を含めた総合的な判断は欠かせませんが、同居で生計一の場合の当てはめはそれほど難しくはないものの、別居で生計一であることの立証のほか、同居で生計別であることの立証は、主観的な判断にならないようにしなければなりません。何れにしても、日頃のお金に対するメリハリは、結果として表れると言えます。

ところで、親の持ち家に、長男だからと世間一般で言うところの当然の流れで同居しているという家族もいるでしょう。親子3世代で一緒に住んではいるけれども、食事の好みは違うし、家族全員が集っての団らんも珍しく、必要がなければ特に会話をすることもなく、お互いがあまり干渉し合わないため、お互いの行動予定をハッキリわかっていないような、大凡、関係が濃いとは見られないような家族もイメージできます。
こんなとき、お金の部分を除けば【どこが生計一なのか、別生計だよ】と言ってしまいそうですが、前述の解釈に当てはめた場合は生計を一にすると判断されることはあります。あくまでも【税金は置いといて】という視点ではありますが、不思議な感じはしてしまいます・・・。

<参考>所得税基本通達2-47、税務訴訟資料第252号(順号9153)〔※1〕