コラム[cf.]
何を取り壊したか【所得税】
建物の取り壊しに関する費用としては、取り壊しの際に実際に支払った【取り壊し費用】と、取り壊すことによって滅失する(=ゼロになる)建物の帳簿価額に相当する【資産損失】があります。
今回は、取り壊し費用について考えたいと思いますが、広く知られている解釈として、土地を譲渡するための取り壊し費用は【譲渡費用】、古家付きの土地を購入し直ちに古家を取り壊した場合は【土地の取得価額】、アパートの建て替えのために取り壊す場合は不動産所得の【必要経費】となります。
判断の基準としては【何を】取り壊したか(=対象物)ではなく【何のために】取り壊したか(=目的)がポイントとなります。では【アパートの建築のため】に【空き家】を取り壊した場合はどうでしょうか・・・。
これを、①【目的という視点】から見ると、アパートの建築による将来の不動産所得に対応する費用と捉えれば必要経費になりそうです。また、必要経費にならなくても建物の取得価額に算入されて、間接的に費用化されるとも捉えることができそうです。
他方、②【対象物という視点】から見ると、空き家は【不動産所得を生ずべき業務の用に供されている資産(=業務用資産)ではない】ため、直接の必要経費にも、建物の取得価額にも算入されないという捉え方ができます。
・・・結論は、②の判断のとおり、不動産所得の必要経費にはなりません。支払い時の経費にも減価償却費としても経費にならず、取り壊し費用は家事費として処理されます。この点、相続で取得した建物を取り壊してアパートを新築するというようなケースが考えられるところですが、新築するアパートの建築代金の中には、この類の取り壊し費用が含まれている場合がありますので、この部分を除外する作業を忘れないようにしなければなりません。
さて、もう一つの事例として【同族会社に貸し付けている事務所建物を取り壊して、新たな事務所を建築する】場合はどうでしょうか。
社長が個人で建物を建てて同族会社に賃貸(=社長の不動産所得が発生)しているケースですが、同族会社は現に建物を業務の用に供している状態を想定します。
一見、業務用資産の建て替えなので【目的という視点】からも【対象物という視点】からも、単純に社長の不動産所得の必要経費になると思いがちですが、気をつけなければならない点があります。それは【家賃の支払いがきちんとされているか】です。
よくあるパターンとしては、貸付の当初は家賃の支払いをしていたけれども、同族会社の業績が悪化したことや、社長の所得税の負担を軽減したいことなどを理由に【家賃の支払いをしていない】場合があります。
これが、賃貸借契約の継続を前提として、単に賃料の支払いが免除されている状況なら別ですが、殆どの同族会社の場合は、賃貸借契約が解除されて、使用貸借契約が成立している状況になっていると思われます。
結果、賃貸借契約であれば必要経費になる余地はあっても、使用貸借契約で貸し付けられている建物は【不動産所得を生ずべき業務の用に供されていない資産(=非業務用資産)に該当】し、その取り壊し費用を必要経費に算入することはできません。
勘違いしそうな点としては【何のために】でも【何を】でもなく、旧事務所が【業務用資産に該当するかどうか】ということです。結果的には、前述の【空き家の場合と同様】の取り扱いとなりますが、この場合、いくら【身内】であっても、適正な賃料のやりとりを軽く考えてはいけません。
取り壊し費用を必要経費にするにあたり、
取り壊したものは何かについては、業務用資産であることを[前提]としても、
必要経費、譲渡費用、取得価額、家事費の何れかに分類されるかについては、実は、取り壊しの時期や、資産の規模の違いなど、様々な[場面で異なる]取り扱いとなります。
そして、何が目的だったかを含め、取り壊すことになった経緯が[決め手]となります。
何れにしても、資産損失を含めた建物の取り壊しに関する費用が必要経費になるかどうかは納税額に大きな影響を与えるため、とても重要な論点と言えます・・・。
<参考>所得税法第26条第1項、第37条第1項、第45条第1項、民法第593条、平成28年3月3日公表裁決
副業の申告は【所得税】
会社に勤めている方の中には、副業をされている方がいらっしゃいます。
この本業の給与所得と副業の申告については、法令の規定により【申告しなければならない】場合と【副業の経費が結構掛かってしまって赤字だから税金の還付のために申告したい】と考える場合の2つに大別することもできます。
そこで、このうち【申告したい】場合では【副業収入<副業経費=副業赤字】の状態であるため、この赤字を本業の給与所得と損益通算することで給与所得を圧縮し、税金の還付を目指すという方法がとられるのです。
ただし、そうシンプルにはいきません。特に【趣味が高じた】副業の場合は・・・。
今回は、副業は事業所得か雑所得かという【所得区分】について考えたいと思います。
まずその前提として、前述の損益通算のカラクリについて【雑所得は損益通算の対象にならない】という点を抑えておいて下さい。例えば、給与所得は500万円で、適正に計算されたとした雑所得が▲150万円だったとします。この場合、雑所得の▲150万円は損益通算の対象にならないことから他の所得に影響を与えず、給与所得は500万円のままとなります。そして、給与所得は年末調整で精算済みですから、結局、税金の還付には繋がりません。
だから【副業を事業所得と認識して申告をしたい】という発想になるのでしょう。
さて【所得区分】の判例は多くあるのですが、参考として2つご紹介します。
1つは【東京高等裁判所平成28年8月10日判決(棄却)(上告・上告受理申立て)】の猟銃等の製造に係る業務から生じた損失〔※1〕についてであり、もう1つは【大阪高等裁判所平成24年6月12日判決(棄却)(確定)】の服飾レンタルから生じた損失〔※2〕についてです。
これらは何れも本業が給与所得であり、副業の赤字を事業所得として申告していますが、結果として、何れの副業も雑所得と判断されています。当然、損益通算ができないことから税金の還付には繋がっていません。判断のポイントとしては、①本業において相当額の安定した収入を得ておりその収入が総所得の大部分を占めていること、②副業は本業の仕事のないとき、または本業の合間の僅かな時間で行っていたこと、③特定の取引先はない、または10人程度の知人を相手にしていること、④宣伝広告はなく自らが開設するブログを通じて依頼があれば受け付けている程度、または不特定多数を相手にするつもりはなかったため収益拡大の努力が全く行われていないこと・・・などを【総合的に判断】しています。どうやら【趣味が高じた】副業のようです。
ところで【副業の申告】に関する心配事と言えば、会社の兼業禁止規定を気にされていて、何とか【副業が会社に知られない方法】はないものかという話をよく聞きます。これは【確定申告書第二表の住民税・事業税に関する事項】における住民税の徴収方法を選択することで、特別徴収税額通知書のうえでは有効と思われます。そして、必ず【節税】は気になるものです。雑所得の必要経費はどこまで認められるのか・・・。
ただし、そもそも順番が逆と考えます。本来の順番は【必要経費の範囲】や【申告の仕方】などの[確定申告時期でもできる]判断が先ではなくて、
その副業収入は、事業所得か雑所得かという所得区分の判断を[業務開始の段階で認識している]ことが重要です。
あくまで所得区分の判断がスタートであり、その後に必要経費の精査をする流れとなります。この点、2つの判例では必要経費の範囲を争点にしていませんが、仮に【副業の経費が結構掛かってしまって赤字だから税金の還付のために事業所得として申告した】というのであれば、それはそもそも判断すべきタイミングが【遅すぎた】のかもしれません。
今はインターネット環境が当たり前に整備され、これに伴い業務の態様も様々であると言えることから、所得区分については、形式的ではなく全てが【個別に判断】すべきと考えます。
念のため【事業所得の判断基準】については最後にまとめてありますが、この判断基準の一部にしか当てはまらない場合もあり、総合的に判断すると事業所得になる場合もあります。そして、事業所得であれば青色申告を検討したり、青色申告であれば必要経費の精査にも力が入りますし、そもそも雑所得であればあんまり必要経費を頑張らなくてもいいでしょうし、もっとシンプルな申告になるでしょう。
これから副業を始めようと考えている方や、副業を始めて間もない方は、改めて【所得区分の判断】を忘れないようにして下さい。個人的には【業務開始の経緯】を特に気になる点と位置付けていますが、何れにしても、こうした準備ができていないまま確定申告時期になってしまうと、節税を意識してしまうことから、どうしても【偏った判断】になりがちです・・・。
所得区分の判断にあたっての事業所得の意義は次のとおりとなります。
【事業所得とは】自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性・有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得〔※3〕をいいます。また、
【具体的に特定の経済的活動により生じた所得が事業所得に該当するか否かについては】当該経済的活動の営利性、有償性の有無、継続性、反復性の有無のほか、自己の危険と計画による企画遂行性の有無、当該経済的行為に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、当該経済的行為をなす資金の調達方法、その者の職業・経歴・経験および社会的地位、生活状況および当該経済的活動をすることにより相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するかどうか等の諸般の事情を総合的に検討して、社会通念に照らして判断すべきであるとされます。
<参考>所得税法第27条第1項、所得税法施行令第63条、所得税法第35条第1項、第69条第1項、TAINSコード:Z888-2100〔※1〕、税務訴訟資料第262号-117(順号11967)、税務訴訟資料第261号-245(順号11835)〔※2〕、最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁参照〔※3〕
寄附をするとご主人の税金が戻ってくる【所得税】
確定申告時期になると多いのが、ご主人に代わって奥様が手続きをされる場合です。
今回は、寄附金控除について考えたいと思います。
実際、寄附金控除の適用が可能かどうかを判断するため、ご主人の源泉徴収票と受領証等の有無を確認し、手続きの流れと大凡の還付額をお伝えする段階で、念のため【受領証の名前は何方ですか】と聞くと【私の名前です】ということがあります。改めて確認すると、手続きの過程であまり気にすることなく奥様の名前で色々と済ませたとのこと・・・。そうすると、奥様が専業主婦であったり、扶養控除内の給与収入のみであったときは奥様の税金は還付されませんし、そもそもの目的であったご主人の税金も還付されません。このような相談は本当に気の毒です。
さて、寄附金控除は所得控除の一つですが、所得控除も様々で、誰のものを払ったかによって取り扱いが異なります。本人に係るものか、親族に係るものも含まれるかの別です。
この点、医療費控除や生命保険料控除などは【親族タイプ】であり、小規模企業共済等掛金控除は【本人タイプ】となります。そして、寄附金控除も【本人タイプ】のため、
本人に係るもの[を払った本人に限り]控除できる取り扱いとなり、
親族に係るもの[も含めて控除できる]わけではありません。
この手の手続きを奥様が代わってすることは珍しくないのですが、もしかしたら夫婦だからといって余り深く考えていなかったり、もしかしたら単に認識不足であったり、何れにしてもあまり慣れていない方にとっては本当に残念といえます。ちょっとしたことですが、万が一手続きに不備があった場合は、折角の寄附について何ら税金の還付には繋がりませんので注意しましょう。
では、このような場合の救済措置は一切ないのか・・・。
原則はないのですが、ご主人の寄附金控除が認められた裁決事例があります。この事例は【すんなりと認められた】わけではないのですが、その寄附金を誰が払ったかの判断について、
受領証の[名前が誰になっているか]という形式面ではなく、
その後のご主人の対応を含めて、実際に[誰のお金で払ったか]という実質面が決め手となりました。
ご自身の中で【本当はご主人が寄附したものに間違いない】のに、手続き上のミスで【奥様が払ったことになっている】ため、ご主人の寄附金控除が適用できなかったということはないでしょうか。勿論、寄附先やその目的と個々の経緯を考慮した場合には【事例のように認められる】とは限りませんが、一つの参考になるかもしれません。
なお、様々な課税の場面では、形式的な判断と実質的な判断が登場します。そして実質的な判断が全てであるところ、その後のトラブルを回避するためには、出発点ともいえる形式的な手続き面での不備がないことも重要と言えます。
<参考>所得税法第78条、第120条第3項第1号、所得税法施行令第262条第1項第7号、平成25年7月30日公表裁決
多くなりすぎた開業費【所得税】
市販会計ソフトの普及は、あまり簿記の知識に自信はないけれども起業をしたいと考えている方にとって、インターネットの利用と併せてとても心強い環境と言えるかもしれません。
前回は、開業費の範囲についてお伝えしましたが、今回は、開業前に支払った費用の続きとして【開業費は節税に繋がるかどうか】という別の視点から確認したいと思います。
まず【開業費】と検索すると、大半のサイトで【~も開業費にできるんです】や【開業費で節税】のような記述が見受けられます。この点、発信者側の意図は分からないので一概に否定することはできないのですが、受け取る方によっては【開業費にすれば節税できると勘違い】するのではないかと心配してしまいます。
そして、勝手と思いながら、前回お伝えした開業費の範囲という細かな点(でも本当は論点と思っています)の見落としについて、次のように考えてみました。
→自分で確定申告をするには、帳簿を作成しなければならない
→自分で帳簿を作成したいが、簿記の知識に自信がなくても市販の会計ソフトなら簡単そうだ
→でも、実際に使ってみたら勘定科目が分からない
→できれば今すぐ答えが欲しいが、相談する相手は身近にいない
→インターネットで検索してみたら【~は開業費でいい】や【節税】という記述がある
→念のため【~は開業費でいい】や【節税】という記述を【複数のサイト】で確認する
→複数のサイトの記述=多数意見が後押しになり【開業費にすれば節税できると解釈】してしまう
→結果、開業費から除かれる支出まで開業費勘定残高を構成することになってしまう
です・・・。仮に、答えを求めようとする側にこのような心理が作用していたとしたならば不本意だなと思いつつも、インターネットと市販会計ソフトの普及という背景から、このようなケースは意外に多いと感じています。ご自身は如何でしょうか。
さて、開業費は節税に繋がるかどうかについて・・・、
[開業費勘定の費用化(=償却)のタイミング]により節税に繋げることは可能ですが、
開業費勘定で処理すれば[節税できると勘違いしないように]気を付けて頂きたいとお伝えします。そもそも、開業費に関連して節税に繋げようとするならば、その支出は開業費なのかどうかの判断がスタートであり、論点と言えます。開業費勘定で[処理するか]ではなく[処理できるか]をお考え下さい。
ところで、開業費勘定で[処理できない]からと言って、
開業費勘定で[処理できなかった費用は経費にならない]ということではありません。
前回のコラムでもお伝えしましたが、原則どおり、消耗品費や旅費交通費、減価償却資産勘定など適正な勘定科目で処理して、堂々と必要経費に計上して下さい。特に、あれもダメこれもダメと言われてしまうとそのまま勘違いしそうなところですので、この点は混同しないように気を付けて頂きたいと思います。そして、開業費勘定で処理すべきものについては【開業費勘定の費用化(=償却)のタイミング】がまさに節税に繋がるわけですが、前述の勘違いしてしまうカラクリを含めて、またの機会にお伝えしようと思います。
<参考>所得税法第50条、所得税法施行令第137条
開業前に色々と準備しました【所得税】
今やインターネットで色々と手軽に検索できることから、このタイトルをみて開業費のことだと気づく方は多いと思います。そこで、今回は【その支出は開業費に含まれるのか】を確認したいと思います。
例えば、自分の店をもって飲食店を始めたい方。オープンまでにはやるべきことは沢山あると思いますが、お店の食器類やテーブル・椅子などの購入もその一つでしょう。タイミング的には開業前に支払った費用と言えますが、これらの購入費用は開業費になるのでしょうか。
結論は、開業費になりません。仕訳例としては、日付は開業日で、勘定科目は消耗品費や減価償却資産で、摘要欄には実際の支払い日とその内容を記入する方法が妥当と言えます。結果的に【開業後に購入した場合と特に違いはなく】、仮に個々の金額が10万円未満であれば消耗品費で処理されることから【開業年分の消耗品費勘定は多額になる】こともあるでしょう。
開業費は繰延資産の一つですが、そもそも繰延資産とは、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものであり、このうち開業費とは、
①~・・・事業所得・・・~を生ずべき事業を開始するまでの間に、開業準備のために【特別に支出する費用】であり、
②【資産の取得に要した金額とされるべき費用および前払費用を除く】
と、定義しています。食器類やテーブル・椅子などは、まさに資産の取得に要した金額であり、開業費からは除かれるのです。
さて、現時点のご自身の帳簿を確認してみて下さい。開業前という時期的な判断のみで開業費勘定で処理していた場合は、きっと、開業費勘定の残高が多額になっていることと思います。これから起業を考えている方と起業されて間もない方はまだ間に合います。もう既に申告をしてしまった方は放置するのだけはやめましょう。何とかなるかもしれません・・・。開業前に支払った費用のうち開業費勘定で処理できるものとは、
開業前に支払ったかどうかという[単に時期的なことだけ]で判断するのではなく、
資産の取得や前払費用を除く特別な支出のうち[個々の支出の内容に応じて]判断すべきものなのです。
因みに、開業前に支払った建物賃借契約に係る契約金、パソコンや専門書の購入費用、年払いの会費、内装工事費、商品や材料の仕入れ代金なども開業費からは除かれて、個々の内容に応じた勘定科目で処理することになります。
ところで、何故このような細かな点(でも本当は論点となりますが)を見落としてしまうのかとても気になったので、敢えて検索してみました。様々な記述というよりは目を引くような記述が多く、なるほど・・・何となくわかったような気がします。
<参考>所得税法第2条第1項第20号、所得税法施行令第7条第1項第1号