コラム[cf.]
副業の申告は【所得税】
会社に勤めている方の中には、副業をされている方がいらっしゃいます。
この本業の給与所得と副業の申告については、法令の規定により【申告しなければならない】場合と【副業の経費が結構掛かってしまって赤字だから税金の還付のために申告したい】と考える場合の2つに大別することもできます。
そこで、このうち【申告したい】場合では【副業収入<副業経費=副業赤字】の状態であるため、この赤字を本業の給与所得と損益通算することで給与所得を圧縮し、税金の還付を目指すという方法がとられるのです。
ただし、そうシンプルにはいきません。特に【趣味が高じた】副業の場合は・・・。
今回は、副業は事業所得か雑所得かという【所得区分】について考えたいと思います。
まずその前提として、前述の損益通算のカラクリについて【雑所得は損益通算の対象にならない】という点を抑えておいて下さい。例えば、給与所得は500万円で、適正に計算されたとした雑所得が▲150万円だったとします。この場合、雑所得の▲150万円は損益通算の対象にならないことから他の所得に影響を与えず、給与所得は500万円のままとなります。そして、給与所得は年末調整で精算済みですから、結局、税金の還付には繋がりません。
だから【副業を事業所得と認識して申告をしたい】という発想になるのでしょう。
さて【所得区分】の判例は多くあるのですが、参考として2つご紹介します。
1つは【東京高等裁判所平成28年8月10日判決(棄却)(上告・上告受理申立て)】の猟銃等の製造に係る業務から生じた損失〔※1〕についてであり、もう1つは【大阪高等裁判所平成24年6月12日判決(棄却)(確定)】の服飾レンタルから生じた損失〔※2〕についてです。
これらは何れも本業が給与所得であり、副業の赤字を事業所得として申告していますが、結果として、何れの副業も雑所得と判断されています。当然、損益通算ができないことから税金の還付には繋がっていません。判断のポイントとしては、①本業において相当額の安定した収入を得ておりその収入が総所得の大部分を占めていること、②副業は本業の仕事のないとき、または本業の合間の僅かな時間で行っていたこと、③特定の取引先はない、または10人程度の知人を相手にしていること、④宣伝広告はなく自らが開設するブログを通じて依頼があれば受け付けている程度、または不特定多数を相手にするつもりはなかったため収益拡大の努力が全く行われていないこと・・・などを【総合的に判断】しています。どうやら【趣味が高じた】副業のようです。
ところで【副業の申告】に関する心配事と言えば、会社の兼業禁止規定を気にされていて、何とか【副業が会社に知られない方法】はないものかという話をよく聞きます。これは【確定申告書第二表の住民税・事業税に関する事項】における住民税の徴収方法を選択することで、特別徴収税額通知書のうえでは有効と思われます。そして、必ず【節税】は気になるものです。雑所得の必要経費はどこまで認められるのか・・・。
ただし、そもそも順番が逆と考えます。本来の順番は【必要経費の範囲】や【申告の仕方】などの[確定申告時期でもできる]判断が先ではなくて、
その副業収入は、事業所得か雑所得かという所得区分の判断を[業務開始の段階で認識している]ことが重要です。
あくまで所得区分の判断がスタートであり、その後に必要経費の精査をする流れとなります。この点、2つの判例では必要経費の範囲を争点にしていませんが、仮に【副業の経費が結構掛かってしまって赤字だから税金の還付のために事業所得として申告した】というのであれば、それはそもそも判断すべきタイミングが【遅すぎた】のかもしれません。
今はインターネット環境が当たり前に整備され、これに伴い業務の態様も様々であると言えることから、所得区分については、形式的ではなく全てが【個別に判断】すべきと考えます。
念のため【事業所得の判断基準】については最後にまとめてありますが、この判断基準の一部にしか当てはまらない場合もあり、総合的に判断すると事業所得になる場合もあります。そして、事業所得であれば青色申告を検討したり、青色申告であれば必要経費の精査にも力が入りますし、そもそも雑所得であればあんまり必要経費を頑張らなくてもいいでしょうし、もっとシンプルな申告になるでしょう。
これから副業を始めようと考えている方や、副業を始めて間もない方は、改めて【所得区分の判断】を忘れないようにして下さい。個人的には【業務開始の経緯】を特に気になる点と位置付けていますが、何れにしても、こうした準備ができていないまま確定申告時期になってしまうと、節税を意識してしまうことから、どうしても【偏った判断】になりがちです・・・。
所得区分の判断にあたっての事業所得の意義は次のとおりとなります。
【事業所得とは】自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性・有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得〔※3〕をいいます。また、
【具体的に特定の経済的活動により生じた所得が事業所得に該当するか否かについては】当該経済的活動の営利性、有償性の有無、継続性、反復性の有無のほか、自己の危険と計画による企画遂行性の有無、当該経済的行為に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、当該経済的行為をなす資金の調達方法、その者の職業・経歴・経験および社会的地位、生活状況および当該経済的活動をすることにより相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するかどうか等の諸般の事情を総合的に検討して、社会通念に照らして判断すべきであるとされます。
<参考>所得税法第27条第1項、所得税法施行令第63条、所得税法第35条第1項、第69条第1項、TAINSコード:Z888-2100〔※1〕、税務訴訟資料第262号-117(順号11967)、税務訴訟資料第261号-245(順号11835)〔※2〕、最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁参照〔※3〕