コラム[cf.]

2017-11-24 18:09:00

取り壊し費用と資産損失と規模【所得税】

以前のコラム(何を取り壊したか【2017.09.15所得税】)では、取り壊しの時期や資産の規模の違いにより、取り壊し費用は場面で異なる取り扱いがされる点について記述しました。
今回は、資産損失について、不動産所得が赤字となってしまう場合の【制限がされる独特な処理】を確認しようと思います。

さて、建物の取り壊しにまつわる費用と損失については、処理の分かれ目となるポイントが2つあります。1つ目は、費用と損失の区分ですが、
建物を取り壊すことによって資産そのものについて生じた損失を[資産損失]と言い、
この損失には、取り壊しに伴い支出した解体や除去の費用である[関連費用]は含まれないという点です。
なお、資産損失は【未償却残高】とも表現し、取り壊しによってゼロになってしまうその建物の帳簿価額(=減価償却後)をいいますが、関連費用を除く資産損失だけが制限されることになります。
そして2つ目は、不動産の貸付けが事業的規模か否かという点です。
事業的規模でない場合を【非事業的規模】とか【業務的規模】と表現し、その判定には【5棟10室】という基準があって、例えば、アパートなら10室以上であれば事業的規模と判断できるのですが、この点、不動産の貸付けが、
事業的規模であるときの資産損失は[全額]が必要経費に算入されるのに対して、
事業的規模でないときの資産損失は[その年分の不動産所得を限度]として必要経費に算入されるという違いがあります。

では、資産損失について、不動産所得が赤字となってしまう場合を当てはめてみようと思います。例として、次の貸家1棟を取り壊した場合をイメージして頂きたいのですが、念のため、用語の使い方として【控除する】とは【経費勘定で計上(=必要経費に算入)する】ことを意味します。
①関連費用(取り壊し費用)・・・185万円
②資産損失(未償却残高)・・・120万円
③不動産所得の金額(①と②の金額を控除する前)・・・200万円
これを制限がないものとして単純に計算すると、不動産所得の金額は▲105万円(=③-①-②)の赤字ですが、例は、事業的規模ではないため、必要経費の算入が制限される独特の処理をしなければなりません。

処理の順序としては、関連費用①は制限を受けず全額が必要経費に算入されることから、資産損失控除前(=関連費用控除後)の不動産所得の金額は15万円(=③-①)となります。
次に、資産損失②はその控除前の不動産所得の金額(=15万円)を限度とすることから、資産損失120万円のうち15万円を控除します。この結果、最終的な不動産所得の金額は0円(=マイナスにはなりません)となり、資産損失120万円のうち控除しきれなかった105万円は必要経費に算入することができません。切り捨てられてしまい、勘定科目であれば事業主貸となるでしょうし、他に活躍することはないということです。
また、応用として、仮に例の関連費用①が230万円だった場合、資産損失②を控除する前で既にマイナスですが、結果、不動産所得の金額は▲30万円の赤字であり、資産損失120万円の全額が、必要経費として何も活躍しないということになってしまいます。

上記の取り扱いは、建物の全部を任意で取り壊した場合を想定しましたが、建物の一部の取り壊しや災害等による損失の別であったり、事業的規模か否かの判定時期など、更に違った切り口で考えてみると、建物の取り壊しにまつわる費用と損失の注意点は、まだまだあります。
身近なところでは、社長が同族会社に有償で貸し付けていた店舗1棟を取り壊した場合に置き換えて考えることができますが、必要経費の算入が制限される独特の処理をしなければならない点は同じです。反面、不動産所得の金額が赤字にならない場合や、不動産の貸付けが事業的規模である場合は、資産損失に制限はありませんので、混同しないようにして下さい。
この基本的な考え方をもとに、他の注意点については、本年分の確定申告に間に合うように確認したいと思います・・・。

<参考>所得税法第37条、51条、所得税基本通達26-9、51-2

2017-11-17 16:38:00

親族名義の生命保険料控除証明書【所得税】

この時期に多い【保険のハガキ】にまつわる話です。医療費控除に匹敵するくらい、皆さんもよく知っていて【ハガキがいくつあっても10万円を超えたらもういらないよ】とか【家族のハガキも使えるんだよ】とか、色々な会話が聞こえてくるのですが、今回は、年末調整における生命保険料控除について、ひょっとしたら勘違いしているかもしれない点を3つ確認したいと思います。
例えば、生命保険料控除のうち旧制度の一般用を使って、妻が年末調整で生命保険料控除を受ける場合をイメージしてみて下さい。控除額の上限5万円を目指そうとすると、年間支払保険料または掛金(=保険料等)が10万円以上なければならないのですが、妻名義のハガキ1枚分では10万円に満たないときに、少し言い方は乱暴ですが【家族の分もかき集めて提出している】ということはないでしょうか・・・。
以下、契約例は【契約者:夫、被保険者:夫、死亡保険金受取人:妻、年間支払保険料等:12万円】で、夫は同様の契約が複数件あるものとします。

さて、確認したい点の1つ目は【親族の要件】です。 
まず、生命保険料控除のうえで親族が要件となるのは、保険金や共済金その他の給付金(=保険金等)の【受取人】の全てが、保険料等の負担者本人またはその配偶者その他の親族であることです。ここに【生計一の親族】であるとか【契約者が親族】であるという要件はありません。あくまでも、確認すべき親族は【受取人】であって、この点で、前述の【家族のハガキも使えるんだよ】という意味を考えると、
控除を受けようとする者(=妻)と[契約者(=夫)が家族]だから使えるのではなく、
控除を受けようとする者と[受取人が家族(=妻本人)]だから使えることになります。
なお、保険のハガキには受取人が誰であるかの記載がされているとは限りませんし、また、当初契約後に受取人に変更がある場合も考えられますので、勤務先に提出する時点での受取人を確認するように注意して下さい。

そもそも、大前提として【生命保険料控除を受けることができる者(=本人)】とは、保険料等を【負担した者】をいいます。必ずしも、保険の【契約者(=ハガキの名義人)】が控除を受けられる訳ではなく、年末調整の場面であれば、誰が勤務先にハガキを提出して控除を受けようとする者であるかという点になります。なお、ここでハッキリさせておかなければならないのは、2つ目の確認となる【支払った事実】ですが、
控除を受けようとする本人が[支払った保険料等に限り]控除の対象となるのであり、
決して、家族なんだから本人が[支払ったことにしよう]という解釈は、認められません。
例えば、妻が保険料等を支払っていたのであれば、ハガキの名義人は夫であっても、妻は控除を受けることができますが、当然、夫が支払っていたにもかかわらず【既に1枚のハガキで夫の控除的には10万円を超えている】ことを理由に、残ったハガキを妻の控除分として使用することはできません。

では、前述のとおり保険料等の負担者と受取人の親族関係も問題なく当てはめて、妻が生命保険料控除の適用を受けたとして、将来、夫が死亡した際に取得する死亡保険金には、どのような税金がかかるでしょうか。これが、3つ目に確認をしたい点であり、1番の論点となりますが、結果としては、実際に保険料等を負担した妻の一時所得として課税されます。
このとき【契約者の死亡による保険金の取得だから相続税の対象になると思っていた】という認識であったのであれば間違いとなりますし、また、参考までに、前述の契約例で受取人が子であるときに、妻が保険料等を支払っていた(=生命保険料控除の適用を受けていた)のであれば、子が取得する死亡保険金は贈与税として課税されてしまいます。

一般的には、相続税の課税対象とされたうえで、生命保険金等の非課税規定(=500万円×法定相続人の数)の範囲内で無税に向かうという考え方が大半で分かり易いでしょう。
この点、保険料等の負担者が誰であるかに応じて、取得した保険金等の課税関係が異なることを理解されているのであれば問題ないのですが、そうでない場合にも【家族のハガキも使えるんだよ】と、目の前の生命保険料控除による満足を受けてしまっては、将来の課税関係で大きな勘違いをしてしまいます。
確かに、生命保険料控除を受ける時点と、死亡保険金を受け取る時点のズレという特徴から、取得した保険金等を【契約者が負担者であった】ものとして、相続税の課税対象と主張してしまうことも可能かもしれませんが、やはり、生命保険料控除の際に採用した【妻が支払った事実】は【夫が支払っていない事実】となり、将来受け取る保険金等の課税関係の裏付けにもなることを忘れないで下さい。

なるほど、親族が絡む課税の場面では、勘違いや目の前の節税効果を意識しすぎたがために、将来【~したことに】とか【~しなかったことに】というような、後付けの課税を主張することのないようにしたいものです。

<参考>所得税法第76条、第34条、相続税法第3条、5条、国税庁HP質疑応答事例(妻名義の生命保険料控除証明書に基づく生命保険料控除)

2017-10-20 16:03:00

医療費の領収書の行方【所得税】

確定申告時期のバタバタしているときに、医療費の領収書をドッサリ持ってこられるとこれを確認するだけでも大変ですが、毎年1回しかない面談の中で【今年は医療費が多かった、少なかった】という話題から、関与先のこの1年についての話が盛り上がるときもあることを考えると、医療費控除は【節税】以外の視点からみても、役に立っているのかもしれません。
その医療費控除も、平成29年分の所得税(平成30年3月申告分)から大きく改正されますが、制度の概要から、改正前の医療費控除との違いを確認しようと思います。

【1】医療費控除は2つに区分された選択制へ
[改正前]所謂【10万円を超える医療費】について適用を受けることができましたが、改正後も大きな変化もなく存続し、制度としては今まで通りの医療費控除という認識でいいと思われます。改正後は、特例との区分のため【通常の医療費控除】と表現します。
[改正後]セルフメディケーション税制による医療費控除の特例が【創設】されたことで、改正後の医療費控除は【通常の医療費控除】と【セルフメディケーション税制による医療費控除の特例】の2つに区分されます。なお、このうちどちらか一方を選択適用しなければならないため、2つの医療費控除を同時に受けることはできません。

【2】医療費の明細書の変更
[改正前]医療を受けた人や病院名、支払った医療費などを記入して、医療費の領収書と一緒に提出していましたが、その領収書を入れる封筒形式の明細書です。改正後は【医療費控除の明細書】に名称が変更され、その様式も大幅に変更された点が改正項目と言えます。
[改正後]ご自身が選択適用する医療費控除の区分が、通常の医療費控除かセルフメディケーション税制による医療費控除の特例かに応じて、それぞれ【医療費控除の明細書】と【セルフメディケーション税制の明細書】を使い分ける必要があります。また、今までであれば、医療費の領収書は明細書封筒に入れて税務署に提出していましたが、改正後は、領収書の提出が不要になったことから、領収書の提出の代わりに、これらの明細書の添付が必要となりました。

【3】医療費のお知らせの活用
[改正前]健康保険組合などから交付される【医療費のお知らせ】は、医療費の領収書に該当しないため、医療費控除にあたり、これまでは何の役にも立ちませんでした。改正後は、このお知らせを【医療費通知】と表現します。
[改正後]【通常の医療費控除】を選択適用する場合に、医療費控除の明細書を作成する際の【医療費通知に関する事項】欄の記入に役立てることができます。ただし、この取り扱いは、領収書毎に明細書への個別記入をすべき本来の作業を省略して、医療費通知に記載された医療費の額を明細書に合計転記することができるという趣旨ですから、万が一、医療費通知の記載額が、その年中に実際に支払った医療費の額と異なるときは、領収書等によって、その年中に実際に支払った医療費の額を確認のうえ補正が必要です。なお、この医療費通知は医療費の領収書そのものではありませんが、申告の際に添付しなければなりません。

【4】インフルエンザの予防接種とか健康診断とか
[改正前]インフルエンザの予防接種費用や健康診断の費用は、原則として、医療費控除の対象にはなりません。この点は、改正後であっても変わらないため、今まで通り【通常の医療費控除】に含めません。なお、改正後のセルフメディケーション税制による医療費控除の特例では、インフルエンザの予防接種や健康診断など【一定の取組】を行っていることが要件です。
[改正後]セルフメディケーション税制による医療費控除の特例を選択適用する場合に、前述の一定の取組を行ったことを明らかにする書類として、これらの領収書の添付または提示が必要ですが、この場合でも【一定の取組にかかった費用そのもの】は控除の対象となりません。改正に伴い、インフルエンザの予防接種とか健康診断とかという単語がそれっぽく使用されていますが、これらの費用そのものが医療費控除の対象とならない点は、改正前と同様です。

ところで、医療費の領収書はこれまで通り必要です。税務署への提出が不要となっただけで、5年間の保存は義務付けられますし、また、便利になったようにも感じてしまう医療費通知の取り扱いをみても、その記載額を鵜呑みにすることはできないことから、改正後であっても、やはり、医療費の領収書の1つ1つが前提と言えます。
多いか少ないかで節税の効果が分かり易かった医療費控除ですが、改正後の選択制に伴い、ご自身にとってどちらが有利か判断しなければならないようです。確かに、創設の目的や狙いから、節税の可能性は広がるのでしょうが、それにしても、シンプルな規定の方が色々と助かります・・・。引き続き、領収書を失くさないようにコツコツと取っておくリズムで、今まで通りお願いできればと思います。

<参考>所得税法第73条、租税特別措置法第41条の17の2

2017-10-13 15:42:00

併用住宅と支払利息【所得税】

店舗兼自宅、事務所兼自宅などで個人事業を営まれている方について、併用住宅に関する【できる規定】を確認したいと思います。
事例として【床面積をもとに算出した比率は、9%が事務所用(=居住の用以外の用=事業の用と表現)で、91%が居住の用である併用住宅をローンで新築した】ものとしますが、ローンのうち、事業の用に供する部分の取扱いはどうなるのでしょうか・・・。

1つ目は【住宅借入金等特別控除】の取扱いです。
住宅借入金等特別控除の対象となる家屋は、居住の用に供する家屋で一定の要件を満たすものとされており、このうち、事業の用に供する部分がある場合は、その部分を除いた居住の用に供する部分の床面積に占める割合によることとなりますが、事例では、91%が住宅借入金等特別控除の対象となり、残りの9%は控除の対象となりません。
2つ目は【支払利息の必要経費算入】の取扱いです。
事例では、事業の用部分は9%ですから、仮にローン全体の年間支払利息が20万円だったとすると、1.8万円を必要経費に算入することができることになります。
結果、ローン全体でみれば、年末残高の91%部分を住宅借入金等特別控除の対象とし、その年中に支払った利息の9%部分を必要経費算入の対象とするのが、原則となります。

ところで、住宅借入金等特別控除の取扱いには、前述の原則に対する特例として、併用住宅に関する【90%のできる規定】があります。
これは、居住の用に供する部分と居住用以外の用に供する部分を床面積の比により計算した場合に、居住の用に供する部分の割合が【概ね90%以上】に相当するときは、原則にかかわらず【家屋の全体を居住の用に供しているものとする】ことができる規定ですが、居住の用部分と事業の用部分を【厳密に区分】するのではなく、事業の用部分が小さいのであれば、家屋全体を居住の用として取り扱うことができるという、課税実務上の配慮と言えます。
事例では、事業の用に供する部分を含めた100%を住宅借入金等特別控除の対象として【選択】することができます。
ただし、この【90%のできる規定】を選択して、家屋全体を住宅借入金等特別控除の適用対象とした場合には、9%部分(1.8万円)の支払利息を必要経費に算入することができなくなってしまうので注意が必要です。
この点、できる規定を選択して住宅借入金等特別控除の【適用を受けている年分】は、居住の用以外の用部分は全くないものとして扱われるため、必要経費【も】というような重複適用はできませんが、できる規定を選択して住宅借入金等特別控除の【適用を受けた年分後】は、住宅借入金等特別控除の適用期間は終わってしまい、できる規定を選択する余地はなくなったため、引き続き事業の用に供しているのであれば、その部分の必要経費の算入は可能という考え方によります。

そうすると、併用住宅のローンに関する取扱いのうち、
[住宅借入金等特別控除の視点]からみた選択肢としては、
①原則どおり、91%部分を住宅借入金等特別控除の対象とするか、②家屋全体100%を住宅借入金等特別控除の適用対象として選択することが考えられます。また、
[必要経費算入の視点]からみた選択肢としては、
③前述①に対応させるためできる規定を選択せず、原則どおり、事業の用に供している9%部分を必要経費に算入するか、④前述②に対応させるためできる規定を選択して、住宅借入金等特別控除の適用が終わった年後は、原則どおり、事業の用に供している9%部分を必要経費に算入することが考えられます。
僅か10%の問題かもしれませんが、ご自身にとっての節税効果を最大限発揮させるにはどのように選択すべきでしょうか。十分ご検討下さい。

さて、居住用財産を譲渡した場合の居住部分の判定や、特定の事業用資産の買換えの場合の事業用部分の判定にも90%のできる規定があり、また、他の税目でも、様々なできる規定というものはあります。
何れにしても【得をした感じを与えてしまう】できる規定ですが、1つのできる規定を選択することで、他の【節税要素が機能しない】場合がある点はご注意下さい。できる規定【だけに注目】して、あれもできる、これもできると、拡大解釈をしませんように・・・。

<参考>所得税法第45条、租税特別措置法第41条、租税特別措置法施行令第26条第6項第1号、第2号、租税特別措置法(所得税関係)通達41-27、租税特別措置法(所得税関係)通達41-29

2017-09-29 15:20:00

なかなか消えない開業費【所得税】

貸借対照表の資産の部に計上された開業費は、償却という方法で経費にします。
建物や車両運搬具などを費用化する際の【減価償却費】と同じ考え方で、多額の一時的な支出を何年かにわたって経費勘定に振り替えていく作業となります。このうち、開業費は繰延資産の償却となり、勘定科目も本来は【繰延資産償却】となるのですが、個人の場合は、申告書に添付する決算書のうえでは減価償却費に含めて計算するため、この点からも同じ考え方と言えます。違いと言えば、減価償却は【強制償却】という点でしょうか・・・。

さて、開業費の償却については、所得税法で【償却期間】が設定されています。これは、減価償却の【耐用年数】に相当しますが、原則5年(=60ヶ月)で均等償却となります。また、原則に対する例外として【任意償却】という方法もあります。
例えば、300万円の開業費を償却しようとする場合、次の方法による償却が考えられます。
①原則・・・1ヶ月当たり5万円(=1年当たり60万円)を償却費として計上。結果、開業年が1年未満であれば、足掛け6年で全額を均等に償却します
②任意償却・・・全額を償却するまでに5年(=60ヶ月)以上掛かっても構いませんし、1年当たりの償却額にも限度がありません。結果、自由に償却時期と償却額を選択できるため、開業年に300万円全額を償却費として計上することや、利益が突出した年に償却することで節税を図るということも可能です。何れにしても、開業費は好きな時に経費にできるという特徴があります。

そこで、以前のコラム(開業前に色々と準備しました【2017.07.07所得税】と、多くなりすぎた開業費【2017.07.14所得税】)では【開業費の範囲】について記述しましたが、今回はその最終回で【節税に繋がるカラクリ】について考えたいと思います。その前に、このカラクリに必要な要素をもう2つ確認して下さい。
1つ目は、純損失の繰越控除です。これは事業所得の金額の計算上生じた【赤字を3年間繰り越すことができる】規定で、仮に、平成29年が▲200万円、平成30年は300万円の黒字の場合、平成30年は平成29年の赤字を控除した後の100万円で税金を計算することができるというものです。当然、3年以内となる平成32年までの黒字から控除できるわけですが、反面【3年を過ぎると控除できなくなる】点は注意が必要です。
2つ目は、業績の【設定】です。一般的に、開業年は赤字になり安定した経営には数年を要すると言われることや、対して、積極的に黒字化を実現していくつもりであることなど【どのように業績を設定するか】もカラクリの要素と言えます。そして、これらの要素をまとめると、
【開業年は純粋に赤字だからこれ以上経費がなくてもいい】+【開業後数年間は多くの黒字は期待できない】+【赤字を3年以内に控除しきれなかったら勿体ない】+【開業費は任意償却ができる】=だから【開業費で資産計上しておけば将来の黒字の時に経費にできるから便利】というような発想になるのかもしれません。
また、発信する側も、多分【開業費は任意償却をすれば好きな時に経費にできるので節税対策になりますよ】と表現したいところが【開業費で節税できる】という表現に置き換わったんだと思われます。なるほど、この方が【ミラクルな方法】にも【お得な方法】にも、そして何より【分かり易い表現】に感じられます。
開業費が【節税に繋がるカラクリ】はこんなところです・・・。それでも、開業や設立支援と節税を【提案する立場】としては、改めて【開業費勘定で処理すれば節税できると勘違いしないようにご注意下さい】と、発信します。

ところで、開業費の処理については、個人事業主だけではなく、法人であっても同様の場面が想定されます。この点、法人であれば【法人税法】とは別に【中小会計要領】や【中小指針】が求めるところの【費用処理の取扱い】を無視することはできません。
こちらは【適正な会計処理】からの視点であり、節税というよりは、所謂【開業費勘定の資産価値】に着目していますが、確かに、
業績と相談しながら償却して[如何に節税に繋げるかを調整できる]税法ベースの考え方と、
支出の効果が期待されなくなった時までには[費用処理を求める]会計ベースの考え方では、
貸借対照表に計上されている[開業費勘定の捉え方]は大きく異なります。
個人と法人の違いはあっても【何時かの節税のために温存していたはずの開業費】が【何時になっても消せない開業費】になっていないかの検証は忘れずに【適正な会計処理】を・・・。

<参考>所得税法第50条、所得税法施行令第137条、所得税法第70条第1項、第4項、第5項、所得税法施行令第201条

1 2 3