コラム[cf.]

2017-10-20 16:03:00

医療費の領収書の行方【所得税】

確定申告時期のバタバタしているときに、医療費の領収書をドッサリ持ってこられるとこれを確認するだけでも大変ですが、毎年1回しかない面談の中で【今年は医療費が多かった、少なかった】という話題から、関与先のこの1年についての話が盛り上がるときもあることを考えると、医療費控除は【節税】以外の視点からみても、役に立っているのかもしれません。
その医療費控除も、平成29年分の所得税(平成30年3月申告分)から大きく改正されますが、制度の概要から、改正前の医療費控除との違いを確認しようと思います。

【1】医療費控除は2つに区分された選択制へ
[改正前]所謂【10万円を超える医療費】について適用を受けることができましたが、改正後も大きな変化もなく存続し、制度としては今まで通りの医療費控除という認識でいいと思われます。改正後は、特例との区分のため【通常の医療費控除】と表現します。
[改正後]セルフメディケーション税制による医療費控除の特例が【創設】されたことで、改正後の医療費控除は【通常の医療費控除】と【セルフメディケーション税制による医療費控除の特例】の2つに区分されます。なお、このうちどちらか一方を選択適用しなければならないため、2つの医療費控除を同時に受けることはできません。

【2】医療費の明細書の変更
[改正前]医療を受けた人や病院名、支払った医療費などを記入して、医療費の領収書と一緒に提出していましたが、その領収書を入れる封筒形式の明細書です。改正後は【医療費控除の明細書】に名称が変更され、その様式も大幅に変更された点が改正項目と言えます。
[改正後]ご自身が選択適用する医療費控除の区分が、通常の医療費控除かセルフメディケーション税制による医療費控除の特例かに応じて、それぞれ【医療費控除の明細書】と【セルフメディケーション税制の明細書】を使い分ける必要があります。また、今までであれば、医療費の領収書は明細書封筒に入れて税務署に提出していましたが、改正後は、領収書の提出が不要になったことから、領収書の提出の代わりに、これらの明細書の添付が必要となりました。

【3】医療費のお知らせの活用
[改正前]健康保険組合などから交付される【医療費のお知らせ】は、医療費の領収書に該当しないため、医療費控除にあたり、これまでは何の役にも立ちませんでした。改正後は、このお知らせを【医療費通知】と表現します。
[改正後]【通常の医療費控除】を選択適用する場合に、医療費控除の明細書を作成する際の【医療費通知に関する事項】欄の記入に役立てることができます。ただし、この取り扱いは、領収書毎に明細書への個別記入をすべき本来の作業を省略して、医療費通知に記載された医療費の額を明細書に合計転記することができるという趣旨ですから、万が一、医療費通知の記載額が、その年中に実際に支払った医療費の額と異なるときは、領収書等によって、その年中に実際に支払った医療費の額を確認のうえ補正が必要です。なお、この医療費通知は医療費の領収書そのものではありませんが、申告の際に添付しなければなりません。

【4】インフルエンザの予防接種とか健康診断とか
[改正前]インフルエンザの予防接種費用や健康診断の費用は、原則として、医療費控除の対象にはなりません。この点は、改正後であっても変わらないため、今まで通り【通常の医療費控除】に含めません。なお、改正後のセルフメディケーション税制による医療費控除の特例では、インフルエンザの予防接種や健康診断など【一定の取組】を行っていることが要件です。
[改正後]セルフメディケーション税制による医療費控除の特例を選択適用する場合に、前述の一定の取組を行ったことを明らかにする書類として、これらの領収書の添付または提示が必要ですが、この場合でも【一定の取組にかかった費用そのもの】は控除の対象となりません。改正に伴い、インフルエンザの予防接種とか健康診断とかという単語がそれっぽく使用されていますが、これらの費用そのものが医療費控除の対象とならない点は、改正前と同様です。

ところで、医療費の領収書はこれまで通り必要です。税務署への提出が不要となっただけで、5年間の保存は義務付けられますし、また、便利になったようにも感じてしまう医療費通知の取り扱いをみても、その記載額を鵜呑みにすることはできないことから、改正後であっても、やはり、医療費の領収書の1つ1つが前提と言えます。
多いか少ないかで節税の効果が分かり易かった医療費控除ですが、改正後の選択制に伴い、ご自身にとってどちらが有利か判断しなければならないようです。確かに、創設の目的や狙いから、節税の可能性は広がるのでしょうが、それにしても、シンプルな規定の方が色々と助かります・・・。引き続き、領収書を失くさないようにコツコツと取っておくリズムで、今まで通りお願いできればと思います。

<参考>所得税法第73条、租税特別措置法第41条の17の2