コラム[cf.]

2019-09-15 22:21:00

身内の給料は納期特例のタイミングで【法人税】

『役員報酬をアップすれば法人税の負担は少なくなる。いつも、半年毎の納期特例の時期に帳簿を急いでまとめて、大凡の利益をみてから給料を決めている。給料は振込にせず、現金支払いにすれば可能。お客さんも喜んでくれるし、この方法が一番得をする』

・・・だそうです。何処かの研修会の休憩時間に、近くにいた方の会話と記憶しています。
法人税法の規定では、定期同額給与という考え方があります。役員報酬は、期中に増額や減額をすること自体は可能なのですが、そのタイミングによっては損金不算入となる場合があるため、すんなりと損金算入が認められるには、期首から3月を経過する日までに改定する必要があります。
中小企業の殆どが、期首から2月以内(=前事業年度の期末から2月以内)に、法人税の申告時期に合わせて定時株主総会を開催して、それ以後の増額改定を決議するというのが一般的ですが、納期特例のタイミングで役員報酬を決めるとは、遡って定期同額給与に当てはまった【ことにしよう】と思ったのでしょうか。
隠蔽や仮装という点でダメなのは勿論ですが、敢えてその部分は触れずに別な視点から、
役員報酬の増額は、本当の[節税]になっているのか、また、
役員報酬を増額することで[資金繰り]に影響はないのかを考えてみます。

まず、節税についての基本は、目の前にある税金の減少だけに拘らないことです。
法人税を払いたくないなあと思えば、何とかして法人の経費を探そうとします。これで、目先の法人税を減らすことができたらまずまずとしても、個人の税金が増える可能性を忘れてはいけません。
また、法人の支出という点からも、社会保険料がアップすることも考えられるでしょうし、個人の税金には住民税や法人が社会保険未加入の場合の国民健康保険料の増加も含まれます。特に、個人の税金等は課税時期が翌年にズレてしまいますので、こういったタイムラグも含めて、法人の支出増加を含む節税額と個人の節税額を比べて、法人の節税額等が大きいのであれば、ようやく役員報酬をアップして節税効果があったと言えます。

次に、資金繰りについてです。
法人税は勿体ないという発想から、赤字にしてまで役員報酬を多額に支給するケースがあります。
役員報酬を満額払えていればいいのですが、中には、役員借入金を充てている会社が見受けられます。結局、赤字なので法人税の節税に繋がったようには見えますが、反面、累積赤字と役員借入金(負債)は増えてしまいます。この点、身内からの借入金なら増えてもどうにかなるとか、いつか役員借入金を放棄してもらえばいいとか考えてしまいますが、これはこれで別の問題があることも理解しておかなければなりません。
また【利益が出ている=資金繰りが順調】とは言い切れません。黒字にはなっているけれども、銀行借入金や割賦未払金の返済などで資金繰りはギリギリという、所謂、黒字倒産を心配してしまいそうな会社もあります。節税対策のつもりが資金繰りを圧迫させる原因になる点も考えなければなりません。

さらに、節税効果の範囲を役員の相続税や贈与税の増減まで広げて考えると、手っとり早く目先の法人税がどうにかなればいいというものではなく、逆転もありうるということです。こんなときは【〇〇税専門】とか【〇〇税に特化】みたいなアピールは敢えてしなくても、様々な税目を想定した節税シミュレーションの話題になれば、遡及してどうのこうのというミラクルな方法より話は盛り上がると思います。
また、比較する数値がでたらめでないことが肝心ですが、そうすると【現状で法人税と個人の税金等の負担はそれぞれいくらですか】という問いに答えられる状態でなくてはなりません。現状把握がきちんとできているかということです。余談ですが、何らかのシミュレーションをするにあたり、今すぐ差異を知りたいがために現状把握を省略して仮定の金額を使おうとする方がいますが、これはおすすめしません。多少の時間はかかっても現状把握はキッチリとするべきです。
今回は役員報酬に絞りましたが、これらの問題は、法人の必要経費や資産の取得など支出を伴う全てに置き換えることができる考え方です。一番得をするのは、節税、資金繰り、複数税目、現状把握をセットで捉えたときでしょう。

前述の会話をされていた方が同業者であることは間違いありません。幹部なのか、教わり方を間違ったスタッフなのかは分かりませんが、何れにしても、まだこの手の需要があるのかと驚いてしまいます。税理士でないことを願いますが、それにしても、人は何でこんなに喋りたがるのでしょうか。自慢できる内容でもないのに、聞かされた相手も困るかもしれないのに、隠蔽とか仮装とか以前に、本当に残念なのは何でもペラペラ喋ってしまうところなのかもしれません。
そもそも、色々なことを間際になって何とかしてくれ精神でやってこれて、これで十分と考えている会社も会社ですが、身内の中でお金を回すことが最善策とは限らず、家族経営の中小企業こそ、このあたりの修正はし易いと感じます。まずは、どんぶり勘定をどうにかしていきましょう。お伝えしたいことは結構あります

<参考>法人税法第34条1項1号、法人税法施行令第69条1項1号