コラム[cf.]

2017-08-18 14:28:00

誰が建てたアパートか【財産評価】

相続税の節税対策としての生前贈与でよくある事例です。

【問い】A土地は父の所有ですが、その上のB貸家は長男の所有であり、第三者丙に貸し付けられています。長男は父からA土地を無償(=使用貸借)で借り受けていた状況で父の相続が開始したとき、A土地についてはどのように評価するのでしょうか。

【答え】使用貸借のため、自用地として評価します。

・・・相続税の課税価格に算入されるA土地の評価額についての問題になりますが、土地の使用貸借に係る使用権はゼロとして扱われるため、一見、適正な評価に見えます。では、貸家の敷地の用に供されていることから、貸家建付地としての評価はできないのでしょうか。

さて、相続開始時点で【問い】のような利用状況になるパターンとして2つ考えられます。
①父からA土地を使用貸借のうえ【長男がB貸家を建てて】丙に賃貸した場合と、
②【父がB貸家を建てて】丙に賃貸し、その後、長男にB貸家を贈与した場合です。
ところで【相続開始時点】の利用状況が同じであれば、評価方法も一緒で①と②に差異はない筈ですが、このような事例では評価額が異なります。①は自用地として、②は貸家建付地として、それぞれ評価することになります。
これは、①の経緯があったのであれば【相続開始時点】の利用状況から見ても【答え】のような一般的な回答となりますが、②のように自用地評価とはならない理由としては【建物の所有者に異動があった場合でも、異動前に父と丙との間で締結された、建物賃貸借契約による建物賃借人である丙の敷地利用権の機能には変動がない】と考えられることから、貸家建付地での評価となるのです。
ただし注意しなければならない点が1つあります。貸家建付地として評価できるのは、あくまで【建物贈与時点】と【建物贈与者の相続開始時点】の建物賃借人(丙)が同一である場合に限られます。そのため、長男が相続開始時点で新たな賃貸借契約を締結している(=従来の丙から新たな建物賃借人甲への変更があった)場合は、自用地で評価しなければなりません。この点、戸建の貸家のほか、サブリースによりアパートを不動産管理会社に一括して貸し付けている場合は、各部屋の居住者ではなく不動産管理会社が建物賃借人となるため、貸家建付地としての評価はスムーズでしょう。

何れにしても、財産評価の場面においては、
相続開始[時点の現況だけ]で判断するのではなく、
誰が建てた建物かなどの[過去の異動]も確認することが重要となります。

ところで、
【問い2】上記【問い】の利用状況(過去の異動は②)で、父が生前にA土地を妻に贈与することとした場合、妻が取得したA土地はどのように評価(=贈与税の課税価格)するのでしょうか。贈与後は、B貸家の所有者である長男は、A土地をその所有者である妻(=長男の母)から使用貸借により借り受けます。

【答え2】貸家建付地として評価します。

・・・上記の【問い】を【相続】ではなく【贈与】に置き換えたパターンです。考え方は前述と同様ですが、建物賃借人の変更を想定する必要がない分、贈与パターンの方が理解し易いかもしれません。念のため、妻がA土地を贈与により取得した【後の】利用状況が使用貸借だからといって、自用地評価とはしないように気をつけましょう。

<参考>相続税法第22条、財産評価基本通達26、相続税個別通達(昭和48年11月1日付直資2-189使用貸借通達)