コラム[cf.]

2019-10-11 22:45:00

相続法の改正と自筆証書遺言【終活】

民法の相続法分野について、昭和55年から約40年ぶりに大幅な見直しがされました。
配偶者の居住権を保護するための方策、遺産分割や遺言制度、遺留分制度、相続の効力等に関する見直しのほか、相続人以外の者の貢献を考慮するための方策など、どれも興味深い改正ですが、今回は、遺言制度に関する見直しのうち【自筆証書遺言の方式緩和】について確認したいと思います。

遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3方式があります。それぞれのメリットとデメリットの比較は割愛しますが、自筆証書遺言は【手軽に作成できる】とか【法定費用が不要】などの理由で選ばれる一方、何もかも【自書=手書き】を要求されていたことから、自書要件の不備により無効となる危険性がありました。
この改正は【遺言の利用促進】が狙いのようで、確かに、財産目録を別紙として作成し添付することができて、その別添する財産目録は自書でなくてもよくなりました。パソコンで作成してもいいですし、他人が手書きをしてもいいですし、また、通帳のコピーや登記事項証明書を添付しても構いません。兎に角、全文が自書だった頃に比べれば、別添の財産目録として全文の一部でも自書から解放された点は大きな変化といえます。この改正で、自筆証書遺言は【手書きからパソコンへ】のようなイメージとなってその利用も増加するかもしれませんが、私が遺言を検討する際に重視する点は、
手軽さとか費用負担が少ないとかの[利便性]ではなく、
熟慮した遺言が実現するための[確実性]と考えます。

さて、人によっては、遺言そのものが要らないという考えの方もいらっしゃいます。下手に遺言を書いて争いになるくらいなら、生前に直接、相応の贈与をしておけばいいとのこと。この点は、贈与税と相続税の比較もしなければなりませんし、逆に遺言がなくて困るケースもあります。遺言があったことで必ず争いを招くとも限りませんし、遺言は資産家だけが書くものとも限りません。
書かなければ意味がないという点では、利便性も手伝って自筆証書遺言を利用することは一つの方法ですが、やはり、私は、遺言を書くなら【公正証書遺言】がベストと考えます。法定費用の負担が大きすぎるとか、公証人や証人のことを考えると手間がかかるなど、何かと【手軽さ】と比較してしまいがちですが、その遺言が実現しなかったらどうしましょう。遺言は、書くことに意味がある訳ではなく、確実に実現されることに意味があると考えます。この改正では【緩和】が強調されがちですが、財産目録への署名押印や訂正方法のルールにも注意しなければならないですし、もともとの自書の部分に不備があったら元も子もありません。
自筆証書遺言の緩和は一部分であって、まだまだ自書が原則であることに変わりないので、積極的に推奨しないまでも、相談者の要望を考慮しながらの活用を検討しているところです。参考までに、私が理想と考える自筆証書遺言は、第3順位の相続や内縁の夫婦関係にある場合を想定していますが、余計なことは書かずにシンプルな内容に適しているため、次の3行でまとめます。
・・・【1行目:全文】私の全財産を、妻(名前をフルネームで)に相続させる。
・・・【2行目:日付】令和1年(または2019年)10月11日
・・・【3行目:氏名】ご自身の名前をフルネームで自署

何れにしても相続とか承継がかかわる場面で、相続税を納めるほど財産がないから遺言も必要がないとか、うちの家族は大丈夫などの理由から、何も準備をしないことが良い方向に働くとは思えません。ご自身が【遺言を書かない訳にはいかない状況にあるのかどうかの見極め】を含めて、専門家の意見も聞いてみて下さい。熟慮に熟慮を重ねて、決して自己完結しないことを望みます。
念のため、自筆証書遺言の方式緩和の改正は、2019年(平成31年)1月13日(日)の施行日【以後に作成】された遺言について適用されます。施行日【前に作成】された遺言については【相続開始が施行日以後】であったとしても適用されませんのでご注意下さい。何時作成したかが分かれ目となります。また、法務局における自筆証書遺言の保管制度については、施行日が2020年(令和2年)7月10日(金)ですが、遺言が実現する気配を感じ、これも気になるところです

<参考>民法第967条、968条、法務省HP民事局/民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正:パンフレットPDF)、法務省HP民事局/自筆証書遺言に関するルールが変わります