コラム[cf.]

2017-11-03 16:24:00

贈与する動機がない【贈与税】

不動産やその他の財産が他人名義となっている場合には、そこに【贈与があるか否か】の判断が求められます。例えば、不動産の購入にあたり、代金の負担者と名義人が異なる場合や、無償で財産を他人名義に変更したような場合ですが、贈与税の課税の場面では、
[贈与があった]ものとする原則的な取り扱いと、その反対(=例外と表現します)となる
[贈与がなかった]ものとする取り扱いがあります。
平成27年9月1日公表裁決は、父が自己資金で購入した(=父は取得者等)車両について、子の名義で登録(=子は名義人)がされていたことから、課税庁側が【贈与があった】と主張した事案です。

これらの規定の概要は、
【1】原則:贈与があったとする取り扱い(相続税法基本通達9-9)
・・・不動産や株式等の財産について、①名義変更があった場合に対価の授受が行われていないときや、②他人名義で新たにこれらの財産を取得した場合には、これらの行為は、原則として贈与として取り扱う
【2】例外:贈与がなかったとする取り扱い(名義変更個別通達1、5)
・・・1.前述【1】に該当して贈与があったとされるときにおいても、①名義人となった者が、その名義人となっている事実を知らなかったことが、当時の情況等から確認できること、および、②名義人となった者がこれらの財産を使用収益していないこと
・・・5.上記【2】1に該当しない場合においても、①他人名義により不動産、自動車等の財産を取得、登録等をしたことが、過誤に基づきまたは軽率にされたものであり、かつ、それが取得者等の年齢その他により確認できるときや、②自己の有していた不動産、自動車等の財産の名義を他人名義に変更、登録等をしたことが、過誤に基づきまたは軽率に行われた場合。
なお、1と5の何れも、これらの財産に係る贈与税の申告等の日前に、その財産の名義を取得者等の名義としたときに限り、贈与がなかったものとして取り扱うとしています。

これらの取り扱いの前提には、通常、財産の名義人とされている者が真実の所有者である(=名義と実質が一致している)という経験則が存するという考え方があり、そこに、無償による財産の名義変更や他人名義による財産の取得があった(=名義と実質が一致していない)場合は、このズレが一致するものとして贈与があったことの推認が働くことを原則としています。
確かに、この原則がなければ、親族間で生前に贈与された財産に対する贈与税は課税されず、また、名義が異なることから、相続税も課税されないという不公平が生まれることを考えると相当な取り扱いではありますが、一方で、このような財産の取得等の全てが贈与であるとは限りません。取り扱いはこの点を考慮して、当事者において【贈与がない旨の特別の反証がある(=贈与があったことの推認の前提となる経験則の適用を妨げるための反証がされていると表現します)とき】には、例外として贈与がなかったものとして取り扱うこととしてます。

さて、前述の裁決では【反証の成否】を十分に検討し、名義人を父とする選択肢があったにも拘らず敢えて子の名義を使用した経緯や、購入した車両を名義人である子が利用することはほとんどなかったこと、取得資金の出捐者は父であり、子は車両の選定や購入手続き等に関与していないなどの事情は、贈与がない旨の【特別の反証】であり、子が車両の贈与を受けたとは認められないと判断しました。納税者側の主張が認められています。
実は、この事案では、結果的に車両の名義を父の名義としていませんし、厳密にいえば、前述の過誤や軽率、年齢の要件も満たしていないようですが、これらの規定が通達という位置づけであることから、反証の程度については、名義変更個別通達に規定される文言通りの要件に限定されるものではないとも言及しています。
結局、この取り扱いの当てはめには、個々の事情を踏まえた納税者側からの反証(=意思表示ともいえます)がカギとなりますが、裁決のなかで【父が子に車両を贈与する動機も必要性もなかった】事情や、父の行動そのものは【正に所有者らしい振る舞いであると評価できる】などと表現しているように、贈与税の課税の場面においては、やはり、民法第549条でいうところの、財産を【お前にやるよ】に対する【有難う】という関係は揺るぎません。

ところで、今回は親子間における車両の名義が問題でしたが、このほかにも、財産が土地や家屋、株式である場合もあれば、当事者が夫婦間である場合も考えられます。様々なケースが想定されるなか、外見上の名義を他人にすること自体はそれほど難しくないのですが、反証のできないものに対する贈与税の課税を回避することは簡単ではないでしょう。

<参考>相続税法基本通達9-9、相続税個別通達(昭和39・5・23直審(資)22ほか名義変更個別通達)1、5、平成27年9月1日公表裁決