コラム[cf.]
3年以内の贈与はありません【相続税】
被相続人は、10年以上も積み立てをしていました。
【必要なお金は用意してあるからな・・・】という気持ちを込めてでしょうか、孫ら名義の通帳を作って、新たに印鑑も用意して、将来訪れるだろう出費に備えていたようです。そして、実際に孫らの入学や結婚などのライフイベントの度に、その預金から引き出して負担していたようです。手続きをしたのも、通帳と印鑑の管理をしていたのも、被相続人でした。また、預金の引き出しについても、被相続人が自らまたは使者(=孫らの母親)に指示して実行されていたとのことです。相続開始の5年程前にすでに積み立ては止めていたようですが、この孫ら名義の預金は1,000万円を超える残高となっていました。
相続税の申告事案の受任にあたっては、相続人に対して聞き取りをしますが、
【Q1.相続開始前3年以内の贈与はありませんでしたか】と質問してみたところ、
【A1.3年以内の贈与はありません】との回答がありました・・・。
これは、相続税法第19条による【生前贈与加算】の規定になりますが、最近の相続税に対する関心の高さからみても、3年以内なら相続財産に【加算される】ことや、3年以内の贈与があったとしても、相続または遺贈により財産を取得していなかったら【加算の必要はない】ことなどは、理解されているようです。それでは、少し言葉を変えて質問をしてみます。
【Q2.相続開始前の資金移動はありませんでしたか】
Q1.と違い、3年以内という【期間】もなく、敢えて【贈与】という単語も使っていませんが、得られる回答はQ1.と同じでしょうか・・・。
ところで、贈与とは、民法第549条に規定されていますが、簡単に言うと【お前にやるよ】に対して【有難う】で成立する諾成契約をいいます。そして、相続で気をつけなければならない【名義預金】問題。前述の事案はまさに名義預金が関係しますが、名義預金とは、被相続人名義ではなく子や孫など親族の名義となっている場合であっても、その預金の形成や管理・運用からみて被相続人に帰属するとされる預金をいいます。
そこで、19条の確認のやり取りで勘違いしてもらいたくない点が2つあります。
1つは、聞き取りをする我々の立場において【3年以内の贈与がないことの回答】を得たからといって【相続財産として認識すべき財産がないことを確認した】ことにはならないということであり、もう1つは、相続人の立場において【資金を移動しただけ】では贈与が済んでいることには【当然にならない】ということです。
そもそも【贈与が済んでいなければ、期間や19条の規定の当否に関係なく相続財産となる】可能性はあるのです。
この事案では、前述の経緯のほか、孫ら名義の預金は被相続人の預金を原資として形成されていること、孫ら名義の預金の存在は他の親族に知られていたにもかかわらず、孫らはそれぞれの名義の預金について残高を把握していないことなど・・・、孫らは受贈者として預金の使用収益権を確保していたとは認めることができませんでした。結果【孫ら名義の預金は被相続人に帰属している=相続財産】と判断しています。
この点、相続人としては、被相続人の名義になっていない預金なので相続財産には含まれないと思っても仕方ありませんし、また、単に3年以内の贈与の存否を確認されたと理解しているため【(自分では贈与と思っている)資金移動は5年前だから・・・】と、A1.の回答をされたとしても無理はありません。まさか【資金の移動があったのに、贈与が済んでいないことがある】とは考えてもみなかったでしょう。
さて、相続税の課税の場面においては、相続開始時の現況または目に見えるものの確認は特別な作業ではないのですが、申告漏れがないように【見つけ出すという意識での聞き取り方】も工夫が必要と考えます。
この事案は、生前対策ではなく孫らのために貯金をしていたというごく自然な行動が招いてしまった結果ですが、もし相続税の節税対策として生前贈与をされるのであれば、
3年以内かどうかという[贈与をするタイミング]を意識するのではなく、
その資金移動は贈与が済んでいるかという[贈与の確実性]を第一に考えるべきでしょう。
なお、この事案では、受任にあたり過去10年分の預金取引履歴を確認しましたので、名義預金の存在に気づき、総合的な判断のもと申告漏れにはならずに済みました・・・。
<参考>相続税法第1条の3、第19条、民法第549条、550条